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INTRODUCTION TO REGENERATIVE AGRICULTURE 「リジェネレイティブアグリカルチャー」を 理解するための7つの補助線

    農業の功罪から「豊かな土壌」の条件、そして生態系と人間の関わり方まで──ユートピアアグリカルチャーと共同研究を進める内田義崇先生(北海道大学准教授)とともに、リジェネレイティブアグリカルチャーを理解するための7つの補助線を紹介します。

    TEXT BY TETSUHIRO ISHIDA

    本記事は、ユートピアアグリカルチャーが提供する、美味しさと情報を届ける定期便「GRAZE GATHERING」に同封される冊子「GG MAGAZINE」からの転載になります。

     

    2022年5月に始まった「GRAZE GATHERING」はリジェネレイティブな放牧の可能性を伝え、共に考えていく取り組みです。4週に1度、2,280円(+送料)でユートピアアグリカルチャーが育てた新鮮な素材(放牧牛乳800ml,放牧牛乳ヨーグルト800ml,平飼いの卵8個入×2パック)と、地球と動物と人のより良い環境作りを目指す活動の報告、リジェネレイティブアグリカルチャーに関するコンテンツ記事をお届けします。

     

    ▷GRAZE GATHERINGの詳細・お申し込みはこちらから

    https://www.utopiaagriculture.com/products/graze-gathering/

     

    1.農業は人類の原罪である

    イギリス人サイエンス・ライターのコリン・タッジは、『農業は人類の原罪である』という著書にて、狩猟採集が中心の人類が1万年前に始まった農業によって安定的な食料供給を実現し、人類は農耕によって繁殖と人口増大を実現したと説明します。一方で、農業のために山や森林を切り開き、耕作することで、自然の生態系を過剰に改変してきた人類は、人口が増えるにつれ、野生動物の絶滅や、さらなる環境破壊の負のスパイラルを招いたと指摘します。

    この動きが顕著になったのは、1940〜60年代にかけて起こった「緑の革命」がきっかけです。品種改良による高収量品種の導入や、化学肥料の大量投入、農薬の登場によって穀物の生産性が向上しました。こうした「工業型農業」の発展により、食料の大量増産を達成し、世界の人口は爆発的に増加したのです。

    しかし、このやり方には副作用がありました。ひとつの作物を大規模栽培する仕組みや、農薬・化学肥料により、地球上の土壌が急速にやせ細ってしまいました。また、窒素・リン酸・カリといった主要な化学肥料の製造過程では、CO2を排出する天然ガスや石炭が大量に使われており、原料となる鉱石や岩もいずれ枯渇するペースで採掘が進められています。

    かつて動植物のユートピアだった地球の生態系は、農業によって収奪され、増えすぎた人間を養うための餌場になってしまいました。これまでの一般的な農業は、私たちへの食料の提供と引き換えに環境を破壊するというやり方を取っているのです。

     

    2.土壌は「巨大な炭素貯蔵庫」

    近年、農業は空気中の炭素量を増加させ、地球温暖化を招く原因であると指摘されています。ひとつの理由は、農地を開発するために森林面積が減少しており、切り倒された木々の分、吸収できるCO2の量が減るからです。それだけではありません。近年の研究で、土壌は大気の2倍、地上に生える植物の3倍の「炭素貯留能力」を持つ、巨大な炭素貯蔵庫だと判明してきたのです。温暖化の原因となる炭素は、土の中に大量に蓄積されていましたが、農業が耕作によって土を過剰に耕したり、肥料を与えすぎたりして劣化させると、CO2が大気中に放出されてしまいます。

    また、砂漠化も気候変動を加速させる深刻な問題のひとつです。人間が土を耕し、木を切りすぎれば、土が乾燥して水分を吸収しなくなります。劣化した土は、風や雨ですぐに流されるようになり、土壌の侵食がどんどん加速します。気づけば洪水や干ばつが起こり、土は荒れ果ててしまいます。「昔、サハラ砂漠は緑に覆われていた」と言われるように、いま緑豊かな土地も、土の劣化によって砂漠へと一変するかもしれません。すると、土中に貯蔵されていた大量のCO2が大気中に放出され、気候変動をさらに加速させる可能性があるわけです。

     

    3.畜産が地球温暖化を加速する

    「畜産」も地球温暖化を加速させる原因だとして、批判の目が向けられています。家畜の飼育は、「肉」や「乳製品」を生産する貴重な営みです。しかし、たとえば草食の牛(乳牛)は、飼料作物を発酵させたサイレージ、穀物類(トウモロコシなど)などの飼料を食べ、乾燥した草であれば1日約15kg食べます。乳牛を一頭飼育するために、莫大な量の食料が必要になるのです。特に牛は地球温暖化に大きな影響を与えると言われています。世界に15億頭存在すると推計される牛ですが、1頭の牛は1日に300-600Lもの温室効果ガスであるメタンを排出し、世界全体で家畜が出すげっぷに含まれるメタンは、温室効果ガスの4%を占めると言われます

    また、家畜を多く放牧しすぎる「過放牧」も、砂漠化を進行させる原因として批判されています。中国の内モンゴル自治区では、緑豊かな草原を利用して大量のヒツジやヤギを飼いすぎた結果、草がなくなって土壌侵食が進んでいるのです。過放牧状態になると、周囲の植物は食べつくされ、地面が踏み固められるなどして、土地が荒れていきます。草の成長が、家畜の餌の量に追いつかなくなれば、草原の植生がどんどん薄くなっていく。こうして砂漠化した内モンゴルは、いま「黄砂」の発生源のひとつとなり、日本にまで土が飛来しています。

    いま畜産は厳しい目を向けられ、肉や乳製品は環境を破壊して入手する「贅沢品」とみなされつつあります。牛やヒツジを悪者にせず、環境負荷をかけずに家畜を育てる方法が見つからなければ、21世紀後半には本物の肉が食べられなくなる可能性があります。

     

    4.「豊かな土壌」の条件

    「良い土」とは、栄養素や水をしっかり保持できるスポンジのような土のことを指します。しかし、土を単なる化学的な無機物として捉えるだけでは不十分です。なぜなら、良い土の構造をつくるのは、土に息づく生物たちだからです。土にはミミズのように大きな生き物から、カビやバクテリアのような微生物まで多様な種類の生物が住んでいます。それぞれの生物がさまざまな役割を果たし、結果として植物の生育に必要な栄養素が届き、植物が生育するための環境が一通り揃うのです。こうした土中の生態系が破壊されれば、土壌構造が変わり、土がやせ細って劣化する状態となる。たとえば、空気や水が蓄えられなくなり、栄養素がなくなる。また一部の微生物は、ミネラルを可溶性にして植物が吸収できるように変換しているので、微生物が消えると植物は栄養不足に陥ります。

    ここでのポイントは、「肥料を与えれば土は回復する」わけではないことです。良い土をつくる生態系は、一度破壊されると長い時間かけなければ取り戻せません。「土の栄養が足りないのだから、足りない成分は化学肥料で与えればいい」というアプローチは一見うまくいきそうですが、土壌の成分バランスや根張りを助け、水や空気の保持を行える構造が崩れて、微生物が生きづらい環境をつくってしまうのです。そのほかにも、「緑の革命」以降、土にダメージを与えて劣化させる要因は慣行農業に多く含まれています。たとえば、微生物を殺す農薬や除草剤。農業機械などで耕されて地表に剥き出しになることで起こる、土壌の乾燥や温度上昇。同じ作物を連続して栽培することで起こる、土壌の成分バランスの崩壊(連作障害)など。こうした土を劣化させる要因を避けて、土の中に多様な微生物の生態系を培うことで、豊かで生命が育ちやすい土壌が生まれるのです。

     

    5.土壌の再生で地球温暖化を「逆転」させる

    近年、農業をしながら劣化した土を回復させる「リジェネレイティブアグリカルチャー」が注目を集めています。米国の環境保護活動家ポール・ホーケンの著作『DRAWDOWN』によれば、「リジェネレイティブアグリカルチャーの目的は、まず土壌の炭素含有量を回復させることで土の健康を継続的に改善、再生し、健康になった土で作物の健康、栄養状態、生産性を向上させること」だとされています。

    ここでポイントになるのが、土の中に炭素を戻す「再炭素化」です。土壌の健康度が上がると、土の中に蓄えられる炭素量が増えます。つまり、土を耕すとCO2が放出されるのであれば、逆に「空気中のCO2を、土壌に埋め戻すこともできる」のではないか、というアイデアです。この方法を、ポール・ホーケンは「地球温暖化を逆転させる」と表現します。農業や畜産によって発生する炭素量を、土が吸収する量が上回れば、大気中の炭素量(温室効果ガスの量)はマイナスになる。

    そのためには、まず農業をしながら、土中の炭素が放出されない工夫を凝らす必要があります。さらに農作物や森林などの植生を再生させることで、土が吸収する量が農業によって排出される炭素量を上回る状態をつくる「カーボン・オフセット」の実現が求められます。あるいは、畜産をしながら土を再生させれば、牧場の牛が発生させるメタンの量以上に、土壌が炭素をオフセットする状態をつくれます。農業や畜産が本当にサスティナブルな営みになるアプローチが、リジェネレイティブアグリカルチャーなのです。

     

    6.不耕起、被覆作物、輪作

    『土・牛・微生物ー文明の衰退を食い止める土の話』の著者であるデイビッド・モントゴメリーは、リジェネレイティブアグリカルチャーが土壌を回復させる三原則を提唱しています。それらは、(1)土壌の撹乱を最小限にすること(2)被覆作物を栽培すること(3)多様な作物を輪作することです。

    まず根幹となる原則は、土壌の撹乱を最小限にすること、すなわち「不耕起」です。前述したように、農作業の一部として土を耕すと、下記のような負の影響が生まれます。

    ・土中のCO2が放出される

    ・土が乾燥して風や大雨などで失われたり、微生物が減るなどのダメージを受けやすくなる

    ・空気や水を蓄えられる細孔や団粒などの土壌構造が破壊される

    ・微生物の繊細な生態系が壊れてしまう

    現代の慣行農業では、作物を植える前に鋤や大型トラクターを使って土壌を撹乱させることが常識であり、「耕さない」ことは非常識・非合理的な農法だとされています。しかし、耕されないことによってこそ、土壌は広さと複雑さを増していき、時間とともに進化して形成されるのです。

    2つ目の原則は、「被覆作物」を栽培すること。土壌は日光や雨風にさらされてダメージを受けるため、地表面を覆って地肌を隠す「被覆作物」を植えることが有効になります。さらに被覆作物があれば、土壌の水分や地温が調整されるだけでなく、被覆作物自体が土を改善する効果がある緑肥になります。また、収穫後の作物残渣を残して土壌が常に覆われている状態にすることも効果的です。

    3つ目の原則は、異なる種類の作物を交互に栽培する「輪作」を実践すること。同じ種類の作物を繰り返し栽培すると、土壌の成分バランスが崩れます。それだけでなく、その作物を好む菌や病害虫の密度が高くなり、微生物に偏りが出ます。その結果、「連作障害」と呼ばれる収量減少や生育不良が発生するのです。古来から日本の稲作では、ひとつの圃場で1年に2種類の作物を育てる「二毛作」や、「稲・麦・大豆」の3つの作物を、2年かけてローテーションで育てる「2年3作」と呼ばれる輪作が実践されてきました。これは連作障害を避けるための知恵ですが、農業の世界では「良い土壌」をつくるための方法が、数十年・数百年前から実践されていることがあるのです。

    3つの原則に加えて、モントゴメリーは農薬や化学肥料についても「極力使用しないほうがよい」という立場を取ります。殺虫剤や殺菌剤、除草剤が使用されると、食物連鎖の捕食者・被食者が姿を消して生態系が崩壊します。また、工業型農業では窒素・リン・カリウムといった化学物質を植物に与えますが、これらも多くの場合、作物が必要な以上よりも多く与えられており、生態系崩壊の原因となるからです。しかし、無農薬・無肥料で育てる完全な有機農法は、気候条件などに影響を受けるため実現が難しい。「慣行農家は被覆作物や輪作と組み合わせて『有機っぽい』農業へ移行し、有機農家は化学製品を少しだけ使用するべきだ」とモントゴメリーは提案します。あくまで人間が持続可能な農業を実践しながら、土の回復を図るのがリジェネレイティブアグリカルチャーの思想なのです。

     

    7.人間が食べられる生態系をつくる

    生態系は、増加する地球の人口を養うための食料を生み出さなければならず、環境負荷が高まっています。このような人間の事情を汲み取った、新しい栄養素の循環はどのようにつくれるのでしょうか。リジェネレイティブアグリカルチャーは、土の回復を通じて生態系を豊かに再生させることで、持続可能な食料供給システムを再構築し、「人間が食べられる生態系」へと改変していく営みです。

    そもそも、人間が生きるには炭水化物、タンパク質、脂質など、さまざまな栄養素をバランスよく必要とします。特にタンパク質や脂質は森林だけで生み出すことは困難であり、「人間が食べられる生態系」では、栄養価の高いタンパク質を供給する「動物を食べられる」循環まで含めて再設計される必要があります。

    しかし、畜産の環境負荷が高いのであれば、やはり人間は肉食を諦めるべきなのではない。ここで鍵を握るのも、土壌の豊かさと生物多様性の視点です。家畜はたくさんの草を食み、大量のCO2を排出します。一方で、家畜の糞尿は、土壌を豊かにして草木を育てます。ジンバブエの生態学者アラン・セイボリーのTED『砂漠を緑地化させ気候変動を逆転させる方法』によれば、家畜を何万頭の群にして自然に似た形で計画的に放牧させることで、自然と草原が生い茂る土地が再生するといいます。

    またオランダ環境評価庁とワーへニンゲン大学との共同研究によれば、草食動物の放牧が低密度で行われている生態系では、最大25%も生物多様性が向上しています。多様な微生物の生態系を培われることで、豊かで生命が育ちやすい土壌が生まれる。するとこの土から育った草木が、炭素を使って光合成し、土に炭素を埋め戻してくれるのです。動物が自然の草を食み、糞尿を排泄する。これを吸って、草木は葉っぱを茂らせる。葉っぱは光合成によって土に炭素を蓄え、微生物が豊かに育つ土壌をつくる。良い土からは、動物が食べる草がたくさん生える。こうして栄養素は循環していきます。

    リジェネレイティブアグリカルチャーでは、特定の農法ではなく「土」への影響を中心に物事を考えます。従来の農業は、やればやるほど土を劣化させてきました。私たち人類が目を背けていた不都合な真実は、「良い土壌は、石油のように失われていく」ということ。良い土は光合成などで日々生成されていますが、それを上回るスピードで消費され壊されているのです。このままでは、人間が食料を生産できる良い土が無くなります。「良い土を再生させながら、土から食べものをつくる」ことができなければ、私たちの現在の食生活は維持できなくなってしまう。農業・畜産を通して森林を活性化し、栄養素を循環させていくことで、森林が人間にとって価値あるモノを生み出せる生態系へと変わっていく。それこそが、リジェネレイティブアグリカルチャーが目指す、新しい農業・畜産のかたちなわけです。

     

     


    【参考文献】

    https://kids.gakken.co.jp/kagaku/eco110/ecology0042/

    https://www.alrc.tottori-u.ac.jp/japanese/sabaku_hakase/sabaku04.html

    コリン・タッジ「農業は人類の原罪である」

    ポール・ホーケン「リジェネレーション 気候危機を今の世代で終わらせる」

    ポール・ホーケン「DRAWDOWNドローダウン― 地球温暖化を逆転させる100の方法」

    桐村里紗「腸と森の『土』を育てる 微生物が健康にする人と環境」

    デイビッド・モントゴメリー 「土・牛・微生物ー文明の衰退を食い止める土の話」

    https://www.bbc.com/japanese/48182496

    http://web.tuat.ac.jp/~tropical/gardening/afolec.pdf

    https://sustainable-table.org/2021/01/30/%e3%80%902050%e5%b9%b4%e3%80%91%e5%9c%b0%e7%90%83%e6%b8%a9%e6%9a%96%e5%8c%96%e3%82%92%e9%80%86%e8%bb%a2%e3%81%95%e3%81%9b%e3%82%8b100%e3%81%ae%e6%96%b9%e6%b3%95%e3%80%8c%e9%a3%9f%e7%b7%a8%e3%80%8d/

    https://www.patagonia.jp/stories/regenerative-organic-for-japan/story-111626.html

    https://www.maff.go.jp/j/kanbo/kankyo/seisaku/attach/pdf/index-9.pdf

    https://agrijournal.jp/production/64232/

    https://www.kaku-ichi.co.jp/media/tips/column/regenerative-agriculture

    https://wired.jp/2021/05/05/utopia-agriculture/

    https://wired.jp/membership/2021/12/08/the-controversial-quest-to-make-cow-burps-less-noxious/

    https://www.utopiaagriculture.com/journal/210218_rr_hu_vo1

    https://www.utopiaagriculture.com/journal/384

    https://www.utopiaagriculture.com/journal/column-vol-03

    https://www.utopiaagriculture.com/journal/422

    https://www.utopiaagriculture.com/journal/440

    https://www.utopiaagriculture.com/journal/455

    https://www.utopiaagriculture.com/journal/496

    https://www.uchidalab.com/projects

    https://www.utopiaagriculture.com/journal/576

    https://www.utopiaagriculture.com/journal/515

    https://www.utopiaagriculture.com/journal/556