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【UA×北大共同研究コラム :私たちが美味しいお菓子を食べ続けるには?】VOL.9 「森林 vs 放牧地」?自然と社会の炭素循環

    こんにちは。前回は、酪農畜産業から発生する温室効果ガスを削減する研究と技術についてお話ししました。今回は、農畜産業にかかわる環境政策についてご紹介したいと思います。

    「農家無くして食料なし」環境政策と農畜産業

    2019年10月、オランダで酪農家を含む畜産農家らが「no farmers no food(農家無くして食料なし )」というスローガンを掲げ、大規模なデモを繰り広げました。

    デモの原因となったのは、政府により提出された窒素排出量削減のための環境対策です。オランダは世界有数の乳製品輸出国で、酪農が盛んです。そのため環境問題への寄与も大きいとされ、提出された対策案には畜産農家の飼育頭数の削減などが含まれていました。

    農家らは、多くの産業が環境問題に寄与するなか、農畜産業だけが不当に大きな責任を負わされている、仕事ができなければ農家は生きていけず食料も生産できない、と主張します。

    オランダのデモに続き、フランス、ドイツ、アイルランド、ニュージーランドなどでも、同様のデモが農家らによって行われました。

     

    2050年までにCO2排出量を実質ゼロにすることを掲げる国が多いなか、環境対策としての農畜産業への規制はこれからも増えていくことが予想されます。同時に、上記のようなデモや反発も増えていくかもしれません。

    長期的な目標や対策は重要ですが、それを実践する現場の負担や反発が大きいと、実現していくことは難しいです。

    農畜産業と環境政策は、どのような関係を築いていけるでしょうか?

    環境対策例:カーボンオフセットとカーボンクレジット

    農業に関係する環境対策として日本でも導入が進んでいるのが、カーボンクレジット(日本ではJ-クレジット)という制度です。

    国や地域、企業などが活動する際に、CO2排出量の削減はできても、ゼロにすることがどうしても難しい場合があります。

    そのような場合に、例えば森林などのCO2の吸収が多い場所での「見積もりのCO2吸収量」を購入し、どうしても減らせなかった排出量を相殺することで「実質ゼロ」とする考え方を、カーボンオフセットといいます。

    カーボンクレジットは、ここでやり取りされる「見積もりのCO2吸収量」のことを指します。

    現在多くの農地はCO2の排出源となっていますが、不耕起栽培をしたり、堆肥や緑肥などの有機肥料を使ったりして耕作方法を変えれば、CO2の吸収源にもなることがわかっています(Vol.3 記事参照)。つまり、農家が農地のカーボンクレジットを売り、利益を得られるということです。

    アメリカではカーボンクレジット制度が進み、認証を受けた農家が大企業と契約を結び、農地でのCO2の吸収量を取引することが広まっています。

    研究とともに仕組みをつくる

    カーボンオフセットという考え方は、農家に制約を課すことなく、むしろ利益となる仕組みをつくることで、農地での温室効果ガス削減に向けた取り組みの後押しをします。

    企業なども環境問題への取り組みとしてはじめやすく、イメージアップにもつながります。

    一方でこの仕組みは、実質的にCO2の排出量を減らしているわけではないため、単なる「免罪符」となり、企業等が環境問題への具体的な対策を取らないことを助長するという批判もあります。取引されたCO2吸収量が、実際より多く見積もられていた、という事例もあります。

    制度が形だけのものになるのを防ぐためには、『農地や森林でのCO2の吸収量や排出量をできるだけ正確に算出し、制度に反映していくこと』が不可欠です。科学的な検証と環境対策の制度は、一体となって進んでいくことが求められます。

    オランダ等でのデモにつながった農畜産業の規制案は、緊急の環境対策として必要なのかもしれません。

    同時に、そのような強い規制を避けるためにも、科学研究が力となりながら、社会のすべての人が環境問題への具体的な行動を積極的に起こせる仕組みをつくっていくことが重要ではないでしょうか。


    参考

    農畜産業振興機構|オランダ酪農乳業の現状と持続可能性(サステナビリティ)への取組み~EU最大の乳製品輸出国の動向~

    三井物産戦略研究所|潜在的なCO2吸収源として注⽬される農地

    農林水産省|カーボン・オフセット

    NHK|新たなゴールドラッシュ? 炭素クレジットに熱視線