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【UA×北大共同研究コラム :私たちが美味しいお菓子を食べ続けるには?】VOL.4 UAの物質循環を評価する

    こんにちは。前回は、地球温暖化を語る上で重要な二酸化炭素(CO2)と放牧との関係についてお話させていただきました。
    今回は、2020年度のUAの栄養素を評価した研究結果についてお話ししたいと思います。

    VOL.1 大地の循環をあるべき姿に。でご紹介したように、私たちは、窒素を中心に「酪農場における栄養バランス」の計算・研究を行っています。「牧場に持ち込んだ栄養素が、どれくらい使われているか?どれくらい周囲の環境に出て行っているか?」を明らかにすることで、余分な飼料・肥料の購入を減らし、持続的な酪農を目指します。

    今回は、2020年4月から2021年の3月にかけて集められた飼料や牧草、牛乳のデータをもとに、ユートピアアグリカルチャーの牧場の1年間の栄養バランスを報告します。

    持ち込み栄養素と持ち出し栄養素の変化

    今回の調査では、持ち込み栄養素として「購入飼料」「化学肥料」、持ち出し栄養素として「牛乳」のデータを分析しています。また、牧場内で循環する栄養素である「自給飼料」「粗飼料」「堆肥」「糞尿」も調べています。

    まず、これらのデータについて、簡単に説明します。

    持ち込み栄養素

    • 購入飼料: 濃厚飼料や配合飼料などの、栄養価の高い飼料です。飼料会社などから購入します。
    • 化学肥料: 牧草を育てる栄養素で、肥料会社などから購入します。

    持ち出し栄養素

    • 牛乳: 生産・出荷される牛乳です。

    牧場内で循環する栄養素

    • 粗飼料→自給飼料: サイレージなど、牧場内で作られ、牛の飼料になります。
    • 糞尿→堆肥: 牛の糞尿から、牧草を育てる堆肥が作られます。

     

    私たちは栄養素のなかの、窒素(N)に注目して循環を調べています。以下が、2020年度のユートピアアグリカルチャーの牧場の持ち込み窒素と持ち出し窒素の合計量の推移のグラフと栄養素の循環の図です。

    牧場全体では一年で一反あたり、購入飼料 7.14 (kg N)+化学肥料 6.71 (kg N) – 牛乳 5.5 (kg N) = 8.32 kg N、持ち込み栄養素のほうが多いという結果になりました。

    この「持ち込まれたが持ち出されなかった」分の栄養素が、牧場内に留まる、もしくは流出する可能性のある余剰な窒素分です。この量を減らしていくことが、より無駄が少ない酪農のために重要とされています。

    それでは、この2020年度の余剰窒素は、どのくらい多いのでしょうか?
    生産量とのバランスは、どのくらいとれているのでしょうか?

    これを知るために、「窒素利用効率(NUE)」という数字を考えてみます。

    牧場の栄養バランスの指標~窒素利用効率NUE

    窒素利用効率(NUE: Nitrogen Use Efficiency, %)は、農業や酪農で、どのくらい無駄がなく窒素が使われているかを調べるための指標としてよく使われており、(持ち出し窒素)÷(持ち込み窒素)×100で計算されます。

    これを計算することで、今回2020年度のUAの牧場での結果を、今年度以降に異なる管理をした場合や、ほかの牧場や地域と比較をすることができます。

    NUEが低いと、環境中に流出している余分な窒素分が多いことになります。逆にNUEが高すぎると、土壌にもともとあった窒素分まで使った生産が行われていることになり、持続的な管理ではありません。

    今回の調査では、2020年度のユートピアファームのNUEは40%でした。ユートピアファームは、持ち込み栄養素である化学肥料や購入飼料が比較的少なく、したがって環境に流出する可能性のある余剰窒素の絶対量が少ないことが特徴的です。

    参考として、酪農・放牧が盛んなニュージーランドやオーストラリア、ヨーロッパの牧場を調べた研究では、多くの牧場のNUEが、20-40%の範囲に収まることが報告されています1

    (De Klein et al., 2017)

    ニュージーランド、オーストラリア、ヨーロッパの牧場でのNUEを調べた研究から引用。縦軸が持ち込み窒素量、横軸が持ち出し窒素量(kg/ha/年)を示しています。点が図の右側に行くほど、持ち込栄養素が大きく、上側に行くほど、持ち出し栄養素が多くなります。ほとんどの牧場が、点線で囲まれたNUE=20-40%の範囲に入っていることがわかります。図中の赤い星印が2020年度のユートピアファームの結果です。

    また、私たちの研究室では、北海道の酪農のNUEを調査し、その傾向やほかの地域や国との比較を行ってきました。

    2015年から2018年にかけて、北海道内の18の畜産農家を調べた研究2では、牧場のNUEは20-171%の範囲におよびました。牧場の規模や管理形態により、NUEは大きくばらつくことがわかりました。

    もちろん、国や地域や牧場ごとに、経営形態や牛の数、土地の広さ、乳製品の消費量の違い、調査の精度の違いなどがあるため、このような数値の比較は簡単ではありません。しかし、これから更に資源のロスが少ない酪農をそれぞれが目指していく際に、共通の指標として使っていくことができます。

    持続的な酪農のための、栄養バランスの目標

    ヨーロッパでは2015年に、酪農のNUEは50-90%の範囲にあることが目標とされました3。下のグラフでは、縦軸が持ち込み窒素量、横軸が持ち出し窒素量(kg/ha/年)を示しています。赤い三角形で囲まれた部分が、NUEが50-90%の望ましい範囲です(更に、生産性と余剰窒素の量を考慮した場合、最適なバランスは、白い範囲内です)。

    (EU nitrogen expert panel. 2015)

    日本と比べて高い生産性が求められるなど、乳製品の消費量が大きいヨーロッパと日本では異なる部分も多いですが、この数値は一つの持続的な酪農のための国際的な指標にできるでしょう。

    NUEを改善するためには、牧場外からの持ち込み栄養素を減らす必要があります。例えば、牧草の収穫時期や品種を変えて、粗飼料の栄養価を高めることで、購入飼料を減らすことができるかもしれません。

    私たちは今後も、ユートピア・アグリカルチャーさんとともに、土や飼料、牧草の成分など、栄養バランスに関わる様々な要素を継続的に調べながら、自然に優しく美味しい牛乳をつくる酪農を目指していきます!


    1 De Klein, Cecile AM, Ross M. Monaghan, Marta Alfaro, Cameron JP Gourley, Oene Oenema, and J. Mark Powell. “Nitrogen performance indicators for dairy production systems.” Soil Research 55, no. 6 (2017): 479-488.

    2 Toda, Misato, Juri Motoki, and Yoshitaka Uchida. “Nitrogen balance and use efficiency on dairy farms in Japan: a comparison among farms at different scales.” Environmental Research Communications 2, no. 12 (2020): 125001.
    https://doi.org/10.1088/2515-7620/abce4a

    3 Panel, EU Nitrogen Expert. “Nitrogen Use Efficiency (NUE) an indicator for the utilization of nitrogen in food systems.” Wageningen University, Alterra, Wageningen, Netherlands (2015).