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【UA×北大共同研究コラム :私たちが美味しいお菓子を食べ続けるには?】 VOL.6 「ウォーターフットプリント」 ~ 水という資源を守るための食生活

    こんにちは。前回は、「プラネタリー・バウンダリー」というコンセプトと、農業の関係についてお話させていただきました。今回は、食料生産に欠かせない水について、ウォーターフットプリントの研究に触れながらお話ししたいと思います。

    畜産と水資源にまつわる世界の課題

    「1キログラムの赤身肉(牛肉)を生産するのに、15,000リットルの水が必要である」という話を耳にしたことはあるでしょうか?この試算は、オランダのウォーターフットプリントネットワークという組織によって2010年に発表されました※1

    前回の記事でもお話した通り、農畜産業と環境問題が切り離せない関係にあります。水資源の利用は重要なテーマの一つです。農業による過剰な地下水のくみ上げや、農業廃棄物の処理のための水の利用により、多くの河川や湖が干上がったり、水質が低下して利用できなくなることが問題になっています。

    冒頭の、牛肉を生産するための「15,000リットル」という数値は大きいですが、具体的にはどんな水で、何に使われており、どのように計算されたのでしょうか?ニュージーランドのStewart Ledgard博士は農畜産業で使われる水の種類を、以下のように説明しています。

    • ブルーウォーター:灌漑のために、地下水や河川水、湖水など、地表面や地下から汲み上げて使う水
    • グリーンウォーター:陸地に留まっている雨水など、植物に自然に取り込まれる水
    • グレーウォーター:肥料や農薬で汚れた水を、無害なレベルにまで薄めて浄化するのに必要な水

     つまり、牛肉を生産するためには、牛が直接飲む水以外に、牛の飼料となる作物を育てるための上記のような水が必要となります。水資源の枯渇や汚染と向き合うためには、このような水の出所や使われ方に注目することが重要です。

    ウォーターフットプリントとは?

    食品だけでなく、あらゆる製品の生産・流通・加工の際に使われる水の量、すなわち水環境への影響を示したものを、ウォーターフットプリントと言います。

    日本のウォーターフットプリントの多くを占めているのが、衣服などに使われるテキスタイル(繊維)と畜産物の生産です。先に述べたように、穀物や野菜の生産以上に多くの過程を経る畜産は、結果として多くの水を使うことになります。全世界の畜産に使われるグリーンウォーターの57%、ブルーウォーターの70%が、飼料となる穀物の生産のために使われています※2

    つまり、私たちが牛乳や肉、卵などを得る際に生まれる水環境への影響を減らすには、飼料作物の生産に使われる水の量をうまく減らしていくことが重要になります。どのような畜産業をすれば、それは達成できるのでしょうか?そして、美味しい肉や牛乳をこれからも食べていくために、消費者である私たちには何ができるでしょうか?

    ウォーターフットプリントを減らすための食生活

    考えるべき点として、Ledgard博士はブルーウォーターに着目すべきだと言っています。つまり、ブルーウォーターをたくさん使って生産された牛肉よりもそうではない牛肉を選ぶべきだ、ということです。先述したウォーターフットプリントの内訳のうち、グリーンウォーターは牛肉を生産してもしなくても起きる水の動きであり、私たち人間がコントロールすることは出来ません。また、グレーウォーターに関しても、河川などの水質をきちんと把握しながら農業を行うことで、汚水を大量の水を使って浄化する、という考え方を一律に当てはめる必要が無くなります。

    それでは、ブルーウォーターの利用が低い畜産物をどう選ぶことができるでしょうか?

    実は日本の場合は、ブルーウォーターを使うこと、つまり、牛の餌となる作物の栽培に地下水や河川水を利用して灌漑することは、ほとんどありません。これは豊かな水資源を有している日本における畜産業の大きなアドバンテージです。そのため、自給飼料でほとんどを賄える形態の牛飼い農家からの製品を選ぶことで、私たち一人ひとりのウォーターフットプリントを減らすことができます。

    逆に、自給飼料よりも輸入飼料を多く使っている場合は、輸入元となる国々で地下水や河川水を使って飼料を作っている可能性があります。つまり、私たちが輸入飼料に大きく依存している牛から生産された畜産物を作る場合、間接的にどこかの水資源を枯渇させ、大きなウォーターフットプリントを生み出している可能性があります。

    ユートピアアグリカルチャーでは、牛たちがなるべく多くの栄養を放牧地から、つまりブルーウォーターを使わない餌を食べるような経営を目指しています。

    環境負荷と、栄養価

     最後に、1キロあたりのウォーターフットプリントを考えるときに、その1キロの食品から得られる栄養を考えることも大切です。1キロの栄養価豊かな食品と1リットルの炭酸飲料を、ウォーターフットプリントだけで比べ、優劣をつけることはできません。栄養価の高い食品をよいバランスで食べることは、人が健やかに過ごすために基本的なことです。

     「できるだけ環境負荷を与えない食品を選ぶ」という考えは、近年どんどん消費者に浸透していっています。一方で、あまりにも単純化された数値や考えがまかり通り、本質が見えなくなっている場合も多くあります。私たち一人ひとりがこれをよりよく理解することで、美しい地球と美味しい食品を食べられる世の中が維持できるのです。


    ※1MEKONNEN, Mesfin M.; HOEKSTRA, Arjen Y. The green, blue and grey water footprint of farm animals and animal products. Volume 2: Appendices. 2010.

    ※2日本が世界の水環境に及ぼす影響を明らかにする「ウォーターフットプリント」