Cart

お客様のカートに商品はありません

VOL.1 大地の循環をあるべき姿に。牧場の栄養バランスを整えるという考え方。

    UA×北大共同研究コラム:私たちが美味しいお菓子を食べ続けるには?

    はじめまして!北海道大学・環境生命地球化学研究室の元木樹里です。昨年度からユートピアアグリカルチャー・プロジェクトの中で、どのように環境に負荷をかけない農業を達成できるのかを生産者らと連携しながら共同で研究しています。これから、こちらのブログで私たちの活動について定期的に発信していこうと思います!

    共同研究のきっかけ

    この共同研究が始まった大きな理由として、酪農の発展と環境問題が常に隣り合わせの時代にあるという背景があります。
    私たち人類は豊かになるにつれ肉や乳製品の消費量が増え、生産性を追い求めるようになりました。小さな牛舎にたくさんの牛を飼い、栄養価の高い穀物を大量に与え、土の中の微生物が分解できる以上の糞尿が農場に落とされ、それが環境に悪影響を与えているからです。

    今でも北海道の酪農は規模拡大傾向が続いていますが、後継者不足などの問題も抱えている今、牛や環境に負荷をかけた現在の酪農形態は持続的だとは言えません。振り返ってみると、本来酪農というものは牛・草・土の循環の上で成り立っていたはずです。私たちはその循環に寄り添った酪農に切り替えていく時期なのではないでしょうか?
    本来の物質循環により沿った放牧酪農を通して環境負荷の少ない持続的な酪農の可能性について、定期的にデータを取りながら検証をしていこうということで、昨年度よりユートピアアグリカルチャーさんとのコラボが始まりました!

    では、実際にどのようにそれを達成できるでしょうか。

    この記事では、先述した環境負荷を抑える一つの方法として「酪農場における栄養バランス計算」について分かりやすく説明します。私たちの研究室では、「FaNBa、ファンバ、Farm Nutrient Balance」プロジェクトと名づけ、これまでいろいろな酪農場を訪問し、この栄養バランス計算を行ってきました。そのコンセプトについて、ご紹介します。

    牧場の栄養バランスとは?

    下図は、酪農場を例として、栄養素循環を可視化したものです。栄養素循環というとピンとこないかもしれませんが、例えば水循環(雨が降り、川が流れ、海となり、海が水となり、水が蒸発して雲となり、雲から雨が降る)も栄養素循環の一部です。地球上では、非常に興味深いことに、すべての栄養素がこのように大気や水、土の中、植物や我々の体の中でぐるぐると循環しながらリサイクルされています。話が少し大きくなってしまいましたが、下図を見ると、化学肥料として持ち込まれた栄養素が牧草になり、牛に入り、一部は牛乳や肉になり、そして糞尿となり、牧草にリサイクルされる、もしくは大気や水に漏れ出す、という循環が見てとれるのではないでしょうか。

    つまり、酪農場において、栄養素は「肥料」や「飼料」の形で農場内に持ち込まれ、それらの一部は「牛乳」や「肉」として持ち出されているわけです。農場に残る栄養素の多くは「糞尿」です。この糞尿が川や大気に溢れだしてしまうとそれは環境への負荷となりますが、そうではなく、土壌に蓄えられ、植物によって再利用されれば、環境負荷は十分抑制できるのです。

    前置きが長くなってしまっていますが、ユートピアアグリカルチャーでは「持ち込み」栄養素と「持ち出し」栄養素のバランスを最適化し、余分な飼料・肥料の購入を減らしていくことを目指しています。

    また、単に目指すだけではなく、私たちは月ごとに、持ち込み、持ち出し栄養素量を計算し、公表していき、データを国際的な学術研究と比較し最適化していきます。

    この記事を書くにあたり、去年は「窒素」に関係するデータをユートピア・ファームから集めてきました。窒素は栄養素の中でも環境負荷となるリスクが高い栄養素である一方で、タンパク質、アミノ酸、ビタミンなどの一部であるため、農業では多量に利用されてしまうことが多い栄養素です。

    国際的にも酪農と窒素利用は大きな課題となっており、国連環境計画(UNEP)のもとで、約90ヵ国の国際機関が参画している世界規模の窒素管理システムの構築を狙う国際プロジェクト「 Towards INMS(International Nitrogen Management System)」では、酪農の窒素利用を国際的に共通の課題として認識するための研究や議論がここ数年活発に行われています。日本の酪農産業もこのような流れに追いついていき、世界をリードしていく必要があるのです。

    私たちがおいしいお菓子などの乳製品を今後長い間楽しんでいくためには、このような国際的な動向を踏まえた農業をしっかり行っていく必要があります。

    このような背景を踏まえ、私たちは、ユートピアアグリカルチャーの牧場をモデルとして栄養循環の最適化を目指します。

    月に1回牧場に関する様々なデータを頂き、実際にどのように栄養素が牧場内を循環しているのか、またそのバランスはどうか?などをグラフを用いて分かりやすく可視化し、消費者の皆さんや酪農家さんと一緒になって酪農における環境負荷を考えていきたいです。

    具体的に何をしているの?

    これから、具体的にどのようなことを出しているのかを簡単にご紹介していきます!

    下の写真がFaNbaプロジェクトで毎月農家さんから頂いているデータの例です。肥料や飼料の購入伝票やエクセルやノートに記録されている牛乳の生産や牛の出荷に関わる情報を農家さんからいただき、それを栄養素量に変換しています。

    計算することによって、下記のようなグラフを作ることができました。下のグラフは、農場面積当たりの窒素の持ち込み量(左側)と持ち出し量(右側)を表しています。先ほどお話したように、酪農場は「肥料」や「飼料」の形で窒素を牧場内に投入し、「牛乳」や「肉」として牧場外に持ち出していますが、実際に1年間で、窒素の収支がどのように推移しているかを示しています。

    この持ち込み窒素と持ち出し窒素の差(図の青矢印)は「余剰窒素」と呼ばれ、牧場内に「余り」として残ります。この「余った」窒素が土や川に流れることで環境問題を引き起こしているのです。

    この余剰窒素を最小化するために、農場経営面でどの部分が見直せるのか、余剰窒素が周囲の環境へ流れ出ないためにはどうすればいいのか? 国際的な基準と照らし合わせて、どれだけ環境負荷の低減が達成できているのか、などを数値的に示し、さらなる改善策を探っています。

    つまり、将来的にグラフの差の部分の「余剰窒素」を減らしていくのが私たちの共同研究を通しての挑戦です!

    長くなってしまいましたが、次回の記事でもより詳しくこの研究について説明していきたいです。

    また昨年度は窒素を中心に牧場の栄養循環を見てきましたが、今後は二酸化炭素や他の栄養素も含めてより包括的な栄養バランスを見ていく予定です!

    今後に乞うご期待ください!