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【UA×北大共同研究コラム :私たちが美味しいお菓子を食べ続けるには?】 VOL.5 プラネタリー・バウンダリーと農業の未来

    こんにちは。前回は、2020年度のUAの栄養素を評価した研究結果についてお話させていただきました。

    今回は、これからの社会と環境について語る上で国際的にも重要なコンセプトである「プラネタリー・バウンダリー」と、農業の関係についてお話ししたいと思います。

    プラネタリー・バウンダリーとは?

    「地球の限界(プラネタリー・バウンダリー)」とは、人間活動が地球全体のシステムに与える影響を科学的に評価する方法及び概念のことです1。2009年に29名の科学者グループによる論文で発表され、2015年に採択された国連の持続可能な開発目標(SDGs)にも大きな影響を与えました。

     J. Lokrantz/Azote based on Steffen et al. 2015.から改変

    プラネタリー・バウンダリーでは、地球の気候や環境、生物のシステムを、以下の9つに分類しています;

    1. 気候変動
    2. 生物多様性の損失
    3. 生物地球化学的循環(窒素とリンのサイクル)
    4. 海洋酸性化
    5. 土地利用の変化
    6. 淡水利用
    7. オゾン層の破壊
    8. 大気エアロゾル粒子
    9. 化学物質による汚染

    それぞれの項目ごとに、「人間活動は、このシステムが自然に回復する力(レジリエンス)の限界を超えていないか?その限界値はどこか?」を理解し、設定します。これにより、現状を知り、将来にわたって人間か安全に活動できる地球環境を保つための方法を、より具体的に考えていくことができます。

     

    例えば、(5)土地利用の変化 では、「地表面の農地化の割合」を評価しています。農地は食料生産に重要ですが、本来そこにあった土壌・植生環境を変え、微生物や植物、昆虫などの量や多様性に影響を与えます。

    もし農地が極端に増えてしまえば、「自然な土地のシステム」を取り戻すことは難しくなるでしょう。2010年時点では、氷に覆われていない土地の11-12%が農地に転換されており、プラネタリー・バウンダリーの指標では、閾値は約15%だとされています。

    この「土地利用の変化」と、「気候変動」「生物多様性の損失」「生物地球化学的循環」の項目で、今日の環境は既に閾値に近い、もしくは閾値を超えた値をとり、人間が安全に安定して活動できるレベルを超えているとされています。

    そのなかでも今回は、農業に大きく関わる「生物地球化学的循環」に関して詳しく見ていきます。

    肥料はどこから来て、どこに行く?~窒素のサイクル

    「生物地球化学的循環」の項目では、窒素とリンのサイクルをそれぞれ評価しています。2015年に設定された基準2では、窒素は年間6200万トン、リンは1100万トン程度が閾値であるのに対し、実際には窒素が年間15000万トン、リンが2200万トンと、両方がその値を大きく超えています。

    ここでは、特に複雑なサイクルを持ち、環境への負荷が大きい窒素に注目します。

    窒素は、リン、カリウムと共に肥料の三要素と呼ばれます。植物体に多量に必要とされる栄養素であるため、農業では肥料として多く与えられます。

    自然界では、土に住む細菌が、大気中の窒素を植物が使える栄養素に変えます。一方で、化学肥料に使われる窒素は、ハーバー・ボッシュ法という方法を使って、工業的に大気から作られます。この方法によって、私たちは自然にできる以上にたくさんの作物を作れるようになりました。

    しかし、作物が栄養分として使える肥料の量には、当然ながら限界があります。現在の農業では、必要以上の窒素分が肥料として畑にまかれており、作物に利用されているのは50%程度だといわれています。余った窒素は、自然環境中に残り、水質の汚染や温室効果ガスの発生などにつながっています。

    たくさん肥料をまけば作物の生産量は増えますが、長い目で見ると、肥料を作るための過剰なエネルギーや費用の投入、環境の負荷などにつながり、持続的ではありません。

    見えない循環を管理する

    プラネタリー・バウンダリーには、農業が8割以上寄与しているとされており3、自然環境へのその直接的・間接的な影響は大きいです。閾値を超えないためには、地球の人口を支える食料生産量を目指しながら、肥料の量を減らしていく必要があります。

    化学肥料をできるだけ減らし、人や家畜のための作物を効率よく育てるためには、窒素やリンの目には見えない循環を調べ、管理していくことが不可欠です。生産者と研究者が連携し、新しい農業のかたちをつくっていくことが、これからの社会のあらゆる側面で重要になるのではないでしょうか。

    ★プラネタリー・バウンダリーについてもっと知りたい方へおすすめ映画

    地球の限界 ”私たちの地球”の科学


    1ROCKSTRÖM, Johan, et al. Planetary boundaries: exploring the safe operating space for humanity. Ecology and society, 2009, 14.2.

    2STEFFEN, Will, et al. Planetary boundaries: Guiding human development on a changing planet. Science, 2015, 347.6223.

    3CAMPBELL, Bruce M., et al. Agriculture production as a major driver of the Earth system exceeding planetary boundaries. Ecology and Society, 2017, 22.4.

    参考
    Planetary boundaries環境用語集:「プラネタリー・バウンダリー」|EICネットARDEC61 / Opinion:持続可能な開発目標(SDGs)とプラネタリー・バウンダリー地球の限界 “プラネタリーバウンダリー” & 循環型社会~世界と日本の取り組みからみんなでできることを考える~ | 地球環境研究センターニュース