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【UA×北大共同研究コラム :私たちが美味しいお菓子を食べ続けるには?】VOL.3 CO2を吸収する放牧のために

    こんにちは。前回は放牧で牛乳を作るうえで重要な「牧草」についてお話させていただきました。

    今回は、地球温暖化を語る上で重要な二酸化炭素(CO2)と放牧との関係についてお話ししたいと思います。

    草地とCO2の関係

    CO2は、地球温暖化への影響が最も大きいとされている温室効果ガスです。

    大気中のCO2の濃度は、産業革命以降今日まで、徐々に増えてきました。

    これは、私たち人間がエネルギーを得るために、石炭や石油などの化石燃料を燃やしてきたことが大きな原因です。

    地球温暖化を防ぐためには、大気中のCO2を減らすことが必要ですが、どうすればこれが達成できるでしょうか?

     

    このためには、「植物」と「土壌」が重要です。

    植物は光合成により、エネルギーを得て、CO2由来の炭素で自分の体をつくっています。

    いちど植物の葉や根になった炭素は、微生物などに分解されて再びCO2となるまで、土にたまっていきます。

     

    牛が牧草を食べて、排泄する糞尿からできる「堆肥」もまた、たくさんの炭素を含んでいます。

    堆肥を適切に管理しながら草地にまくことにより、土壌に炭素をためていくことができ、牧場全体でCO2を吸収していける可能性があります。

    放牧草地はまた、水田や畑などに比べて、掘り起こして耕す回数が少ないです。

    このことは、堆肥に含まれる有機炭素の分解の速度を遅くし、土壌中により多くの炭素を貯められるようにします。

    一方で、無計画に堆肥をまくことで、土壌にためられるはずだった炭素がCO2として放出されることも起こりえます。

    炭素を貯める土づくり

    土壌は、大気の2倍、植生の3倍もの炭素をためることができると言われていますが、そのポテンシャルは現在最大限生かされているとは言い難いです。

    過去に、人間の土地利用変化などで土壌から失われた炭素は、 化石燃料の燃焼由来の総量よりも大きい、といわれています(*)。

    これは逆に言うと、私たちが土壌を適切に管理して、貯められる炭素を増やすことで、大気中のCO2を減少させる(増加を抑える)ことができるかもしれない、ということです。

    土がどのくらい炭素を貯められるかは、その土の特性や周囲の環境によって異なります。

    「ある土は、どのような管理であれば、どれくらい炭素を貯めることができるのか」を調べるための一つの方法として、モデルを使ったシミュレーションがあります。

    モデルに、気候や栽培作物、肥料の種類や量などのデータを入力することで、数年~数十年にわたって土に貯められる炭素の量を予測することができます。下の図は、RothCというモデルを使った場合の、土壌炭素量のシミュレーションの流れです。データとして入力された堆肥や植物由来の炭素は、分解のしやすさなどで分類され、気象・土壌・管理の仕方をもとに、分解の速度が計算されます。これにより、二酸化炭素になる炭素と、土壌に貯まる炭素の量を推測することができます。

    このようなモデルを用いることで、適切な肥料の入れ方や管理の仕方を検討することができます。

    バランスの取れた食料生産に向けて

    酪農から発生するCO2などの温室効果ガスの発生を完全にゼロにすることは、現時点ではとても難しいです。

    たとえば、牛が牧場の草を食べてつくりだす堆肥は、一見炭素の収支をゼロにしそうですが、堆肥の製造や運搬にはエネルギーが必要です。

    私たちは、地域・国・世界全体での、炭素等の物質やエネルギーの流れを調べながら、ひとつひとつの牧場の、食料生産と環境保全が両立できる最適な管理方法を研究していきます。

     


    元木から引継ぎ、今回からは岡が本ブログ記事の執筆を担当しています。

    現在北海道大学・環境生命地球化学研究室の研究員として働いており、農学と情報体験デザインのバックグラウンドがあります。

    食と自然と科学とデザインの目を通して、UAの取り組みを発信していけたらと思います。どうぞよろしくお願いいたします。

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    (*) Lal R.: Soil carbon sequestration impacts on global climate change and food security, Science, 304, 1623-1627 (2004)

     

    参考資料

    (引用)土壌の有機物量が増えると、有機物を分解する微生物にとっての餌が増えるので、炭素の放出速度が高くなる。生態系の炭素吸収速度と放出速度が同じになったところで、炭素の蓄積は止まり、平衡状態に達する。土壌は、植生をしのぎ、陸上で最大の炭素貯蔵庫となっている。

    (引用)草地の場合,採草や放牧によって牧草地上部は収穫・利用されるものの,永年草地では,一度更新されると数年間は耕起せずに利用されることから,土壌中に多くの炭素が蓄えられていると考えられる。諸外国における箪池土壌の炭素隔離に関する研究では,地域や条件によってその量は大きく異なるが,適正に管理された草地は炭素の吸収源であるという見方が強い (Conantら2001; Jones . Donnely 2004 ; Mannetje2007)。