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【UA×北大共同研究コラム :私たちが美味しいお菓子を食べ続けるには?】 VOL.10 牛乳と環境に関わる​国際的なネットワークの大切さ

    今日は世界規模の課題となっている畜産と環境負荷に関して、どのような国際的な枠組み、国境を越えたコミュニケーションが取られているのかをお話しします。

    国際的な枠組みの必要性

    いくつかの記事(Vol.5, Vol.9)で触れられているように、畜産と環境への悪影響は切っても切り離せない関係にあります。一方で乳製品や肉などは国境を越え売り買いされていますし、それら製品に依存している国や地域も多くあります。

    日本でもバターやチーズ、肉など、さまざまな国の商品がスーパーに並びます。これらを食べることで私たちは栄養を摂取したり食事を楽しむことができるわけですが、日常口にするものですので、少しでも環境にやさしいものを食べたいと思う方も多いと思います。

    畜産は国境を越えて取引きされるため、世界規模の枠組み・ルールが必要となります。これは畜産に限ったことではありませんが、温室効果ガスの排出量や、それに関わる取り組み、例えば再生エネルギーなどはそれぞれの国が数値的な目標を決めて達成まで努力していかなければなりません。

    しかし、同じ基準で異なる国を評価するのはとても難しいのです。できる限り公平な枠組みを作るためにはどのような話し合いが必要でしょうか。それにはどんな専門家たちが集まるべきなのでしょうか。

    ここでは、科学者、環境政策を作る人たち、政治家など、さまざまな人々が集まり国際基準について検討しているいくつかの例を紹介します。

     

    気候変動に関する政府間パネル(IPCC)

    IPCCは一度聞いたことがある方もいるかもしれませんが、「国際的な専門家でつくる、地球温暖化についての科学的な研究の収集、整理のための政府間機構1)」として、数年に一度、調査報告書を発表しています。この報告書は世界の気候変動が今どうなっているのかが正確に示されており、世界の今後の方向性を考えるための重要な資料になります。畜産に関しては、どのような餌を使うとどの程度温室効果ガスが出るのか、畜産の種類(羊、牛、鶏など)や飼い方(放牧管理、動物の密度、生産性、糞尿の管理等)で、生産される温室効果ガスがどの程度違うのかが示されています。

    世界中から多数の研究者がこの報告書作りに関わることで、不正確なデータが報告書に載ることがないように、話し合いを重ねます。例えば、温室効果ガスの測定方法、測定する機械をどの程度統一できるか、データの偏りはないか、測定データが少ない場合どのように推定することができるかなど、話し合うことは山ほどあります。

    IPCC 第6次報告書 (2021.8)

     

    こういった話し合いを経て、可能な限り正確な報告書が作られ、それを基準として国や地域ごとの政策や指針が作られていくわけです。

    国際窒素管理システム(INMS)

    似たような国際的な枠組みとして、INMSがあります。この枠組みは地球規模で課題となっている窒素負荷の解決を目指しています。

    畜産に関する窒素負荷の課題としては、化学肥料や糞尿利用に伴う水質や大気汚染が挙げられます。このような課題を国際的に連携して解決するために、IPCCと同じように測定方法の統一や基準作りを行います。

    例えば酪農に関する基準作りの話し合いは、ニュージーランド、オーストラリア、イギリス、デンマーク、中国、アメリカ、カナダ、日本などの専門家が集められ、何年もかけて行われました。メルボルンや北京などで会合が開かれ、朝から晩まで様々な項目について議論がなされました。

    私は日本からこの会合に参加しましたが、日本の酪農でよく行われる糞尿の持ち出し(堆肥を畑農家に譲り、代わりに麦わらなどを仕入れる)などは、海外ではほとんど知られておらず、このような対話することで参加者の知識のギャップが埋まっていき、国際的な仕組み作りへ貢献することができました。

    議論が白熱することも多々あり、さまざまなスタイルの酪農を横並びに比較し、持続性を示す国際基準を作ることはとても難しいと改めて認識しました。

     

    科学者と一般市民に期待すること

    このような世界規模の話し合いは、正直なかなか上手くいきません。どうしても人間というのは自分の利益を第一に考えがちで、自分の国や地域が損をするような基準が作られないように牽制し合うからです。しかし、私たち科学者は地球全体のことを深く考え、知り、知識を結集させて良い方向へ導く責任があります。

    この「知る」ということはとても大事で、私自身もニュージーランドで学んだ知識と今拠点を置く北海道で日々学ぶ事柄を組み合わせ、かつそれをアメリカやヨーロッパ、アフリカなどの研究者と共有し話合い、世界の畜産がどのような状態であれば持続的と言えるのか、専門家としての意見をしっかり持つ必要があります。

    専門家だけでなく、消費者・一般市民の方々も「知ろう」とする、疑問を持つことが重要です。畜産はもはや国際的な産業になっていて、スーパーに行くといろいろな国の畜産物が並んでいます。どこの国の商品がいちばん環境にやさしいか、考えたことはあるでしょうか? 分からないことを問い合わせたり、自分で調べようとするでしょうか? そういったアクションの積み重ねが少しずつ世界を動かしていくはずです。

     


    参考

    1.  ウィキペディア|ipcc
    2. IPCC
    3. International Nitrogen Management System