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環境再生型農業を実践する農家と商品開発する スナックブランド「Moonshot」

    リジェネレイティブアグリカルチャーを牽引する世界各国の企業を紹介し、その実践の最前線を伝えていく連載「The Regenerative Company」。第7回は、生産や消費を通じて、企業や農家のリジェネレイティブシフトをサポートするスナックブランドMoonshotについて。 

    本記事は、ユートピアアグリカルチャーが提供する、美味しさと情報を届ける定期便「GRAZE GATHERING」に同封される冊子「GG MAGAZINE」からの転載になります。

     

    2022年5月から開始した「GRAZE GATHERING」はリジェネレイティブな放牧の可能性を伝え、共に考えていく取り組みです。4週に1度、2,280円(+送料)でユートピアアグリカルチャーが育てた新鮮な素材(放牧牛乳800ml,放牧牛乳ヨーグルト800ml,平飼いの卵8個入×2パック)と、地球と動物と人のより良い環境作りを目指す活動の報告、リジェネレイティブアグリカルチャーに関するコンテンツ記事をお届けします。

     

    ▷GRAZE GATHERINGの詳細・お申し込みはこちらから

    https://www.utopiaagriculture.com/products/graze-gathering/

    2018年、ジュリア・コリンズは偉業を成し遂げました。自身が共同創業した宅配ピザのスタートアップ、Zume Pizzaの評価額が22.5億ドルに到達したことで、彼女は黒人女性としてユニコーン企業の創業者となったのです。

    しかしその少し前の2017年、彼女は息子の誕生というもうひとつの大きな転機を迎えていました。この経験は気候変動に対する見方を大きく変えたと、コリンズは『Fast Company』の取材で話しています。「親になったことで、気候変動はただの懸念事項から、あらゆる手を尽くして解決すべき対象へと変わったのです」

    この想いが彼女を新たなスナック・ブランドの立ち上げへと駆り立てました。その名もMoonshot Snacks(ムーンショット・スナックス)。「気候変動について深く学んでいると恐怖で足がすくみがちです。そんな状態から抜け出して、何かを目指して突き進むという想いを込めています」

     

    (農家で育てられた作物から商品を考える)

    “逆算型”の商品開発プロセス

    Moonshot Snacks初の商品であるクラッカーは、ヴィーガン対応で砂糖や遺伝子組み換え食品は不使用、米農務省によるUSDAオーガニック認証を取得しています。しかし、その最大の売りはクライメート・フレンドリー(気候にやさしい)なスナックであること。パッケージには、環境再生型農業によって育てられた小麦とひまわり油を使っていることやカーボンニュートラルであること、さらにクライマタリアン(気候変動に配慮した食生活)なフードペアリングのアイデアなどが描かれ、環境への配慮が前面に押し出されています。

    そんなMoonshot Snacksの商品開発は“逆算型”といえるでしょう。「通常は最初にバーやオートミールなどつくりたい商品の仕様を決め、その後サプライチェーンで原材料を探しますよね。Moonshot Snacksの場合は逆です。サプライチェーンで環境再生型農業を実践している農家を探し、そこで育てられているものからつくれる商品を考えました」

    例えば小麦の調達において、Moonshot SnacksはHedlin Family Farmsと提携しています。Hedlin Family Farmsは耕起栽培を最低限にしたり被覆作物を活用したりといった環境再生型農業を行なっている、ワシントン州で4代続く農家です。「環境再生型農業のおかげで、この農場では炭素が自然に循環するようになっているだけでなく、野鳥の保護や生態系の向上、送粉者の生息地づくり、さらには炭素排出量の削減まで実現しているのです」とコリンズは語ります

    農家との取引において。Moonshot Snacksは原料を生産者から直接購入しています。仲介業者を挟まずに取引することによって、農家を直接的に支援できるからです。コリンズはこう話します。「収穫に先駆けて農家たちに言ったのです。『あなたの美しい環境再生型農業でこのオーガニックな小麦を栽培するために、このくらいの栽培面積を確保してください。わたしたちはそれを買います』と」

    直接の取引にはもうひとつ、栽培方法の透明性の確保が簡単になるというメリットもあります。例えば環境再生型農業の効果を確認するため、Moonshot Snacksは大学の研究者と協力し、土壌の炭素濃度が時間とともにどのように変化していくのか、環境的な成果を測定するための検査を継続的におこなっているといいます。

    環境再生を業界の標準に

    カーボンニュートラルなお菓子をつくるための工夫は原料だけにとどまりません。そのひとつが、食料の生産地から消費者の食卓に並ぶまでの輸送にかかった距離と重さから割り出される「フード・マイレージ」の削減です。

    Moonshot Snacksが環境再生型農業を実践する農家のなかでもHedlin Family Farmsを提携先に選んだ大きな理由は輸送距離でした。Hedlin Family Farmsの畑から製粉所までは約1マイル(約1.6km)。さらにそこから焼成を行なう工場までの距離は85マイル(136km)ですが、これはほか多くの食品と比べて大幅に短くなっています。栽培から焼成までを同じ地域で行なうことにより、二酸化炭素の排出量を減らすとりくみです。

    また、パッケージにも工夫が隠れています。Moonshot Snacksのクラッカーは外箱も再生紙由来かつコンポストできるようになっており、インクは植物由来と、環境に負荷をかけない取り組みを徹底しています(ただし、生分解性プラスチックは生産時に二酸化炭素の排出量が高くなる傾向があるため、内側のプラスチックはコンポスト不可)。

    再生紙はバージンパルプにくらべて発色に難があったり、コンポストできるパッケージづくりにはコストや時間がかかったりといった問題もあるなか、Moonshot Snacksがあえてそうした取り組みを続けるのはこれを業界の標準にするためだといいます。「消費者がわたしたちのような会社、つまり自分の価値観を反映した会社から食品を購入するようになれば、ほかの会社にも食品製造の方法を変えるよう促せます」

    「クライメートフレンドリー・フード」というムーブメントをつくる

    こうした他企業への波及効果こそが、Moonshot Snacksの大きな狙いです。Moonshot Snacksを展開するコリンズの企業・Planet FWDは自社の知見を生かし、さまざまなブランドが自社製品が気候変動に与える影響を計算し、影響を小さくするための代替原料やサプライヤーなどを提案してくれるツールを開発しています

    「自社が二酸化炭素排出量を把握するのが難しい。どう排出量を削減すればいいか理解のも難しい。カーボンニュートラルを実現するために質の高いカーボンオフセットを購入したかったけれど、それもまた難しかったんです」

    Planet FWDのツールは、そうした壁を取り除くために開発されました。このツールは国際的な温室効果ガス排出量の算定・報告の基準である「温室効果ガス(GHG)プロトコル」のなかでも、自社の事業活動に関連する事業者や、製品の使用者が間接的に排出する温室効果ガスを指す「Scope 3」のモデリングを提供するものです。

    このツールを使っている企業のひとつはミールキット大手の米ブルーエプロンで、ミールキットの製造過程で排出される二酸化炭素の測定や環境負荷の低減にツールを利用しているといいます。「規制が強化されていることで、炭素管理のためのよりよいソリューションを必要とする企業が急増しています。さらに、そうした規制の枠組みは持続可能でクライメートフレンドリーな製品を求める消費者の声によってどんどん強化されているのです」とコリンズは話します。

    Moonshot Snacksにとって、クラッカーやスナック菓子は始まりに過ぎません。その究極の目標は、「クライメートフレンドリー・フード」という新しいカテゴリーをつくることにあります。「わたしたちはあらゆる食品会社がより持続可能な農業や調達方法へと真剣に移行するよう、刺激を与えていきたいと考えています」と、同社のブログはその意気込みを語っています

    そうした意識改革は消費者全員にも求められていると言えるでしょう。コリンズはこう話します。「消費者の背中を押し、食習慣を変えることで気候変動の問題に取り組めるのだと伝えたいと思っています。わたしたちは選択することによって、農家や企業による脱炭素の取り組みを後押しできるのです」