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「リモートセンシング」×「ドローン」によって生態系を回復する──NASA出身エンジニアたちの挑戦【The Regenerative Company:Dendra】

    リジェネレイティブアグリカルチャーを牽引する世界各国の企業を紹介し、その実践の最前線を伝えていく連載「The Regenerative Company」。第三回は、「リモートセンシング」「ドローン」「専門家の知見」を組み合わせ、荒廃した土地の生態系を丸ごと復活させようとしているDendra Systemsについて。

    本記事は、ユートピアアグリカルチャーが提供する、美味しさと情報を届ける定期便「GRAZE GATHERING」に同封される冊子「GG MAGAZINE」からの転載になります。

     

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    「リモートセンシング」×「ドローン」で生態系を回復

    世界の陸地の約3割を占めていると言われる森林。多様な生物の住処となったり、二酸化炭素を吸収したり、多様な資源の供給源になったりと、その役割はさまざまです。

    しかし、こうした森林の多くは人間の活動や火災などによって年々失われ続けています。森林の減少率は近年になってようやく鈍化しつつあるものの、2015年から2020年にかけては年間1,000万ヘクタールのペースで消失が進んでいるのです。

    さらに、地球温暖化と土地利用の変化によって森林火災の発生リスクも上昇しています。国連環境計画(UNEP)は、2100年までにそのリスクは50%も上昇すると推測しました

    こうした問題を生態系の定量化によって解決しようとしているのが、英国オックスフォードのスタートアップ、Dendra Systemsです。同社はリモートセンシングとドローン技術と専門家の知見を組み合わせ、荒廃した土地の生態系を丸ごと復活させようと試みています。

    「土地の回復は壮大で複雑な問題です。ただ木を植えればいいのではありません。土地固有の複雑な生態系を元に戻さなければならず、それには環境学の専門的な知識が求められます」と、同社の共同創業者で最高経営責任者(CEO)のスーザン・グラハムは話します

    そのために、Dendra Systemsはまず鉱山跡地や荒廃した農地の上空に調査用ドローンを飛ばし、土地の現状を超高解像度で撮影しています。1日にマッピングできる面積は、サッカー場400面相当です

    こうして収集されたデータは人工知能(AI)によって1平方メートル毎という細かさで解析され、在来種や外来種、害虫の種類や分布、土地の特徴、さらには生息する動物の種類から土地の緑被率まで細かく割り出されます。こうして解析されたデータを専門家による実地調査の結果と組み合わせ、どこにどの種類の植物をどのくらい植えるのが最適かを判断するのです。

    ひとたび計画が決まると、今度はDendra Systemsのドローンが植物の種子を詰めたポッドを地面めがけて発射します。10台のドローンがあれば1日当たり20万個の種をまくことができ、そのスピードは1分あたり平均120粒。山の急斜面のように人が手作業で種をまきにくい場所にも使えます。


    50種類以上の種子を運ぶドローン

    Dendra Systemsのように植林や植物の種まきを生業とするスタートアップは、世界各国で増えています。オーストラリアのAirSeedや米国のDroneSeed、カナダのFlash Forest、スペインのDronecoriaやCO2 Revolutionなど、同じようにドローンを駆使して種まきを自動化している企業も多く存在します。

    ただし、こうした企業の多くは運べる種子の種類が限られていることがしばしばです。植物の種は水や風、重力などさまざまなものによって運ばれますが、例えば動物の体表に付着して運ばれるタイプの種子は粘着性が高かったり冠毛があったりすることが多く、ドローンに必要とされる要件がほかのタイプの種子と異なります。しかし、生態系の再生をミッションとするDendra Systemsのドローンが1台あたりに運搬できる種子の種類は50種類以上にもなるのです。

    種まきが終わったあともDendra Systemsの調査は続きます。同社は定期的に現地を調査し、樹高や幹の密度、植物相や動物相の変化などをもとに生態系の戻り具合を追跡するのです。こうしたデータはダッシュボードに集約され、行政や企業といったクライアントはサステナビリティレポートや規制当局への報告書などに利用できるといいます。

    NASAの技術を「環境問題」に応用

    同社の前身であるBioCarbon Engineeringの創業は2014年。立ち上げの理由をグラハムはこう語っています。「現在、地球では20億ヘクタールの土地が荒廃し、食料の確保に関しても不安が残っています。この危機的状況を打開するための技術があるはずだと思ったのです」

    BioCarbon Engineeringの共同創業者で前CEOのローレン・フレッチャーはもともとアメリカ航空宇宙局(NASA)で20年間働いていましたが、その技術を環境問題に使えないかと考え同社を創業したと話します

    「宇宙ステーションの生命科学プログラムでは、生物学や工学にまたがる仕事をしていました。その過程で、スマートで最先端の工学システムをどのように生物システムに適用するか、多くの知見を得ました」

    Dendra Systemsの技術は、そうしたNASAのエンジニアリング技術、生物学、そして環境の専門家の叡智の結晶と言えるでしょう。同社が最初にドローンを使って種をまいた場所ではすでに木々が成長し、原生林に溶け込み始めているといいます。

    ドローンによる種まきの有効性はいかほど?

    ただし、ドローンによる種まきがほかの方法と比べてどれほど“効率的”なのかという点は議論の余地があります。2021年夏に発表された研究では、ドローンによる種まきは森林を回復し地球温暖化の解決に寄与できる可能性を秘めているものの、種の生存率の低さなどの問題が立ちはだかると結論づけられました。

    研究者たちは、Dendra Systemsをはじめとするスタートアップの多くはドローンで種子を撒いた場合の成功を公開していないことを指摘しています。大切なのは1日に落とせる種の数ではなく、2~3年後にどのくらいの種が木に成長するのかというのが研究者たちの主張です。

    実際、2021年9月の『WIRED』US版の取材で、Dendra Systemsを始めとするドローン植林企業は、どこもこれまでに植えた木の数の情報公開を拒否していました。ドローンでまいた種子のうち実際に木に成長するのは20%以下であるという研究結果もあるなか、こうした企業はやがて、実際にどれだけ芽が出ているのかを公開する必要に迫られるでしょう。

    「コアラを含めた生態系」の回復を

    現在Dendraは、近年の大規模な山火事によって失われたコアラの住処を復活させるプロジェクトに関わっています。世界自然保護基金(WWF)オーストラリア、オーストラリア政府、ターナー・ファミリー財団と共同で行なわれているこのプロジェクトで、Dendra Systemsは在来種の草やコアラのエサとなる草、そして日陰になる草など40種類の植物の種まきに挑んでいるのです。

    2021年11月には5ヘクタールほどの敷地に45kg分の種がまかれました。最終的な目標は、11ヘクタールの土地に15,000本の木を植えることです。また別の区画では、30ヘクタールに40,000本の木を植えるといいます。

    ただ木を増やすだけでなく、コアラを含めた生態系そのものを再生させることを目指すこのプロジェクトは、Dendra Systemsにうってつけと言えるでしょう。グラハムはこう話します。「生態系を復元するための大規模なアプローチがなければ、ダメージから回復し、自然のシステムを健全な状態に戻すことはできません」

     

    生態系に「レジリエンス」を

    また、植物を植えるのでなく、生態系の定量化することで生態系への脅威を排除しようと試みているプロジェクトもあります。例えば世界自然遺産にも登録されているシドニー北東のロード・ハウ諸島では、Dendra Systemsが島の生態系回復に必要なデータの供給を行なっています

    ロード・ハウ諸島では雑草の駆除が根気強く続けられ90%削減に成功していましたが、島特有の険しい地形が障壁となって島全体の雑草の分布が見えず、完全な駆除の足かせとなっていたのです。

    そこでDendra Systemsは対象エリア全体に調査用ドローンを飛ばし、雑草の分布をマッピングしました。こうして種を定量化することにより、どこでどのような雑草がどれほど生態系に脅威を及ぼしているかを可視化したのです。

    「Dendra Systemsは島に新しい技術をもたらし、在来の動植物相を脅かす侵略的な雑草を特定する作業の進捗を大幅に速めています」と、島の委員会で動植物相と雑草管理を担当するスー・バウアーは語っています。「このプロジェクトは気候の変化に直面しているロード・ハウ諸島の生態系のレジリエンスを高めているのです」


    文・川鍋明日香

    ライター、編集者、翻訳者。雑誌編集部所属の後、2017年の渡独を機に独立。『WIRED』日本版や『VOGUE JAPAN』を始めとする様々なメディアで、テクノロジーからカルチャー、ビジネス、社会問題まで幅広いテーマについて取材・執筆している。最近家族のなかでビーガン餃子が流行中。