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リジェネレイティブな未来予想図 「生態系」と「センシング」を5つの視点から捉える

    「生態系」と「センシング」。一見結びつかなそうなふたつのキーワードを考えることで、この地球で暮らす私たちの未来が見えてくるかもしれません。センシングの技術的側面だけではなく、酪農においてセンシングが可能となることで私たちの生活はどのように変わるのか。その広大なフロンティアを、北海道大学の内田義崇准教授とともに5つの視点で描いてみました。

    本記事は、ユートピアアグリカルチャーが提供する、美味しさと情報を届ける定期便「GRAZE GATHERING」に同封される冊子「GG MAGAZINE」からの転載になります。

     

    2022年5月から開始した「GRAZE GATHERING」はリジェネレイティブな放牧の可能性を伝え、共に考えていく取り組みです。4週に1度、2,280円(+送料)でユートピアアグリカルチャーが育てた新鮮な素材(放牧牛乳800ml,放牧牛乳ヨーグルト800ml,平飼いの卵8個入×2パック)と、地球と動物と人のより良い環境作りを目指す活動の報告、リジェネレイティブアグリカルチャーに関するコンテンツ記事をお届けします。

     

    ▷GRAZE GATHERINGの詳細・お申し込みはこちらから

    https://www.utopiaagriculture.com/products/graze-gathering/

     

    「食べる」ことで自然を再生する

     

    日本には、地域によって伝統的な食べ物や、季節ごとにとれる食材、熟成や発酵などを活かした調理法が残されています。山菜、キノコ、ジビエなどの風土に合った食をその土地で食べることで、大地すべてを「農業の場」として捉えることができるはず。今後、気候危機や人口増加により、食料不足に直面する可能性があるなかで、新しく農業に適した土地を見つけ、食糧生産量を増やすためのセンシング技術が役立つはずです。

    衛星から計測する土地のデータや、土壌のデータによってその状態を把握し、新しい作物を育てる。土地で育ったものから献立やメニューを考え、つくり、食べるようになっていく。これまでの地産地消やオーガニックなどは、「人間中心」の考え方でした。レストランのシェフはお客さんが望む料理を提供するために、農家に生産を依頼する。この方法では、地球資源を収奪する食料生産のあり方から抜け出せません。まずその土地に適したものを育て、その自然の恵みからレシピを考えるといった価値観の転換が必要になるはずです。そうした食を通じて環境を再生させる「サードプレート」という考え方を実践していけば、食糧生産と環境再生の両立が実現できるかもしれません。

    【キーワード:サードプレート】
    米国の料理人ダン・バーバーにより提唱された、「自然を再生するために育てられたもの」を食べる運動。自然の恵みとなる食材からメニューをつくり、自然の循環そのものをレシピにするという考え方です。

    【キーワード:肥料の枯渇】
    作物の生育には窒素・リン・カリの三大栄養素が必要です。しかし、窒素肥料をつくる過程で石炭や天然ガスなどの大量消費や、リン肥料の原材料となる鉱石も過剰に採掘されており、肥料が枯渇する可能性があります。

     

    雑多な生態系こそが美しい!?

     

    これまで田園風景や草原に「美しい」と感じてきた価値観が変化し、今後は雑多な風景や生態系に人々は美しさを感じるようになるかもしれません。広大で均一なランドスケープは環境破壊によって成立する人工的な美しさである一方で、生物多様性が高く雑多なランドスケープには、豊かな土壌や栄養素が含まれています。例えば、100種類以上の野菜や果樹を混生・密生させて栽培する「協生農法」というアプローチでは、センシング技術を用いて共生関係が構築できる作物の組み合わせを発見し、生物多様性が高い生態系をつくる試みが進められています。

    こうして人間が生態系に介入し、拡張していくことで、豊かな土壌は大気中の炭素を吸収し、気候変動への解決策となりえます。また、雑多な環境から生まれる豊富な栄養素は、食糧危機の解決策となる可能性も。草木や虫、鳥、牛などの家畜が共生する森林こそが、未来において「美しい」景色になっていくかもしれません。

    【キーワード:拡張生態系・協生農法】
    「拡張生態系」とは豊かな生物多様性を目指し、人間を生態系の一部として捉えて自然に介入する考え方。多種多様な植物を混生・密生させて多様性を高め、生態系の営みを活性化する「協生農法」というアプローチも。

    【キーワード:林間放牧(シルボパスチャー)】
    森林で動物を放牧すること。動物は木々の間にある雑草を食み、森から栄養素を吸収。雑多で多様性のある森林を保ちながらも、人間が食べられる肉やミルクが生産できる、環境負荷を抑えながら畜産が可能になる方法です。

     

    土に暮らす「微生物」との共生

    リジェネレイティブアグリカルチャーでは豊かな土壌を守ることが重視されますが、そうした土は、微生物の多様性に富んでいます。これまでの農業は、土にいる「微生物の暮らし」を破壊してきました。しかし、近年発達したメタゲノム解析などのセンシング技術は、微生物生態系を解明し、その多様性への介入を可能にしました。例えばJoyn Bioという会社は、「空気中の窒素を作物の成長に使用できるかたちに変換する」特徴を持つ微生物を「改変」し、作物と微生物が共生関係を持てるようにする技術を保有しています。また、「良い土」をセンシングで解析し、「なぜよい土なのか」「どんな効果があるのか」を調べて、他の土地の改良に活かす取り組みも進んでいます。

    微生物多様性が回復すると、微生物が供給する栄養素によって、土は「黒くてふかふか」した状態に戻ります。微生物が土を回復させ、豊かな土が地球を人間が住みやすい場所に変えてくれるのです。

    【キーワード:メタゲノム解析】
    土の中にいる微生物たちのDNAをすべて読み取るセンシング技術。どんな役割を持つ微生物がどれくらい土にいるのか判別できるため、発見した微生物を収集し、他の国の土地まで運んで放つといった実践が可能に。

    【キーワード:Indigo Ag】
    微生物を生きたままコーティングし、作物に適した微生物生態系をつくる種子を販売する米国発の農業系スタートアップ。人工衛星を使ったリモートセンシングにより、世界中で農業に適した土地を発見する技術も保有。

     

    都市ではじめる自給自足の循環生活


    今後、世界的な人口増加により食料不足が深刻化する可能性があるなかで、都市生活者が生産者となり、その都市ならではの自給自足の循環生活が実装されていく未来がやってくるかもしれません。その際にも、データやセンシングが有効です。例えば、都市ごとに「食料自給率」を指標として設定し、屋上農園などで作物を育てて評価する。ポイントは、趣味で野菜を育てるわけではなく、自給率を向上させる主食(炭水化物・タンパク質など)や、栄養素が豊富な作物をつくること。また、作物を栽培する際には都市における栄養素循環を考えます。

    都市には、生活者が排出した生ごみなどの有機廃棄物や、生活排水に含まれる栄養素が大量に蓄積されているため、有機廃棄物をコンポストに入れて堆肥にしたり、生活排水を浄水して作物に送ることができます。人々が生きのびるための穀物資源(稲や小麦)を都市で育てる未来がやってくるかもしれません。

    【キーワード:シンガポール都市型農業】
    約720k㎡の国土に、約570万人が暮らすシンガポールでは、2030年までに食料自給率30%の達成を目標に掲げ、屋上農場、建物内での垂直農業、熱帯気候に適した温室での都市型農業を実践しています。

    【キーワード:フローティングファーム】
    オランダ・ロッテルダム市にある、世界初の牛用水上農場。運河に浮かんだ畜舎で飼育される牛は、都市の有機性廃棄物をエサにします。例えば、醸造用穀物や、スポーツ場の草、加工工場で出たジャガイモの皮など。



    「全球的思考」を持とう!

     

    自然の生態系は複雑です。部分的には最適な介入だと考えていたものが、全体で見ると別の問題を引き起こす可能性があります。例えば、「牛が地球温暖化の原因になっている」と、牛の飼育が禁止されたとします。牛のメタンガス排出はなくなりますが、酪農の仕事がなくなった人たちが都市に流れ、表土の荒廃や都市での環境負荷が高まるなど、別の問題が起きるかもしれません。だからこそ、「全球的思考」により複雑なシステム全体を理解することが求められるはず。

    ユートピアアグリカルチャーは生態系全体における循環を考え、放牧された牛が草を食べ、牛の排泄物によって土や草がまた豊かになり、土壌の活性化や炭素貯蔵量の増加につながる「栄養素の循環」を目指しています。自然の営みをシステムで捉えるには、どの部分で何が起きているかをセンシング技術で可視化し、事象の関係性を紐解き、「全球的思考」で生態系に介入することが大切になっていくでしょう。

    【キーワード:プラネタリーバウンダリー】
    人々が地球で安全に活動できる範囲を定義し、地球の限界点を表した概念。人間活動が限界値を超えた場合、地球環境に不可逆な変化が起きる可能性があります。「気候変動」「海洋の酸性化」など9つの指標があります。

    【キーワード:システミックデザイン】
    世界全体をシステムとして捉え、異なる専門分野の人々が協力してデザインする手法。システムにとって全体最適な解決方法を、ステークホルダー間で共通理解を持ちながら探るフレームワークを提供しています。



    ILLUSTRATIONS BY RAN KOBAYASHI
    TEXT BY TETSUHIRO ISHIDA