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GRAZE EXPERIMENTS リジェネレイティブな放牧がもたらす未来

    「おいしいチーズケーキ」だけではなく、牛乳や卵といった素材を通じて「放牧」の魅力を伝えていく。GRAZE GATHERINGがこれから皆さんと取り組んでいきたい実験と、その先に描く未来について、ユートピアアグリカルチャーを率いる長沼真太郎と、共同研究を続けてきた北海道大学准教授の内田義崇さんが語り合いました。

     

    GRAZE(放牧)の可能性を届けたい

     

    ──この6月より放牧酪農の定期便「GRAZE GATHERING」がスタートしました。ユートピアアグリカルチャーはこれまで「CHEESE WONDER」というお菓子を通じて、リジェネレイティブアグリカルチャーと放牧の可能性を伝えてきましたよね。なぜ「お菓子」にとどまらず、その素材を届けていくことにしたのでしょうか?

    長沼:「CHEESE WONDER」はかなりたくさんの方に届いている実感がありますが、その多くの人は放牧やリジェネレイティブアグリカルチャーのことは知らずに「おいしいチーズケーキ」として認識していると思います。そこからステップアップし、「放牧」が持つ可能性をもっと多くの人に広めたい。そして、GRAZE(放牧)を全面に打ち出すことで、ブランドとしても確立させたいと思っているんです。

    私は札幌の洋菓子店「きのとや」の創業家に生まれ、お菓子のスタートアップ「BAKE」を2013年に創業しました。その後、BAKEの代表取締役を退任して、ユートピアアグリカルチャーを始めたわけですが、これまでずっと純粋に「おいしいお菓子をつくりたい」という思いに突き動かされてきました。そのポイントのひとつが、原材料の品質です。とくに乳製品は非常に重要なんです。放牧による牛乳は一般的なものと比べ、後味の風味がとても豊かなので、お菓子の味を変えてくれます。

     

    ──原材料へのこだわりが、放牧への関心のきっかけだったわけですね。

    長沼:それだけではなく、放牧は消費者や生産者、地球環境、そして動物にもよいアプローチなわけです。私たちは「地球にも動物にも人にも優しいお菓子作り」を掲げ、私たちがもっとも得意なお菓子で勝負してきましたが、放牧の良さを伝えるならお菓子よりも加工度の低いヨーグルトや、素材そのもので味わってもらうのが一番いい。さらに、放牧の可能性を伝えるメディアやコミュニティも必要だと考えました。そこで今回のGRAZE GATHERINGを始めたんです。

     

    ──長沼さんが放牧酪農によるリジェネレイティブアグリカルチャーというアプローチに関心をもったのはなぜでしょう?

    長沼:BAKEを退任した後に1年ほどシリコンバレーに身を置き、研究員をしていました。その際、アメリカのとある牧場が発表したレポートを読んだんです。そこでは、適切な放牧酪農は、土壌を再生し土壌が二酸化炭素を吸収するようになるという「リジェネレイティブアグリカルチャー」の考え方が書かれていました。つまり、カーボンオフセットどころか、カーボンマイナスを実現できる。これには非常に驚いたし、希望を持ちました。

    内田:長沼さんと私の共同研究もそのレポートがきっかけでしたね。

    北海道大学内にある内田研究室では、土壌や植物、大気の物質や栄養素の循環を解き明かすための研究が日々行なわれている。

     

    長沼:そうなんです。内田先生とは、放牧資材の商社であるファームエイジの社長さんを通じて知り合いました。はじめて会ったときそのレポートをお見せして、日本でも実証実験ができないかと相談したんです。環境負荷をかけずに牛を育てる方法があるなら、いまの畜産が生き残れるかもしれない。数値も計測しながらカーボンマイナスを実証していきたいと考え、内田先生に共同研究をお願いしたんです。おかげさまで、平地の牧場では順調に研究が進んでいます。

    内田:私個人もユートピアアグリカルチャーの取り組みには期待しているんです。いま生まれたばかりの子どもが大人になったとき、世界は気候変動によって大きく変わり、もう取り返しのつかない状態になっているかもしれない。にもかかわらず、私たち一人ひとりが切迫感を持てている状況とは言い難いですよね。ユートピアアグリカルチャーのように生活者と直接接点があるビジネスであれば、製品を通じて気候変動の現状を伝え、人々の行動を変えるチャンスになるかもしれない。研究者としても、共同実験で得られたデータや研究が商品になり、多くの人の手に届くのはとても嬉しいです。

     

    「森林」における新しい循環を実証する

     

    ──共同研究をより推進していくために、札幌の中心地から車で20分ほどの盤渓エリアで「FOREST REGENERATIVE PROJECT」も始まります。森林の再生による温室効果ガスの吸収と、農業の事業性の両立を目指した、養鶏と放牧のための実験施設をつくるプロジェクトですが、具体的にどのようなことに取り組むのでしょうか?

    長沼:牛、馬、鶏などを放牧で育てていきます。馬は北海道和種の「どさんこ」を放牧したいと考えています。このどさんこは、雪をかき分けて森の下に生えている笹を食べてくれる。多様な動物たちが山林の植物を食べ、フンをして、大地を歩くことで刺激を与え、多様な栄養の循環が山林に生まれるはずです。酪農の世界において、トラクターが入れない山の中はまだまだ未開拓の領域である一方で、日本には多くの山林がある。その可能性を拡げられれば、国内での波及効果が非常に大きいと考えています。

    内田:私の専門は「土壌における物質循環」なのですが、その土地で育った植物や動物を、人間が牛乳や肉として外に連れ出すだけでは、その土地の栄養は外に持ち出されるばかりで土壌にリターンがありません。それが続けば、大地はやせ細ってしまいます。動物が持っている腸内細菌はそれぞれ違いますから、多様な動物を放牧することでフンに含まれてる微生物も変わってくる。多様な動物が放牧されれば、その分、土に還る微生物や成分も多様になり、土壌の健康につながります。放牧によって土壌が豊かになり、新しい循環が生まれるわけです。

     

    ──人間が生態系に介入し、新しい生態系を構築することで土壌を活性化していく実験なわけですね。

    内田:そうですね。栄養素の循環や土壌の再生に関するデータが蓄積されていけば、ほかの農家がリジェネレイティブアグリカルチャーに移行する際の支援もできるかもしれません。ただ、モデル化は容易ではありません。動植物の種類や成長のスピード、木の間から差し込む光の量など山林は要素が複雑ですから。動物を歩かせるのも一苦労ですし、歩かせるには木を伐採したいところですが、生態系を破壊したり土砂崩れを起こしてしまう可能性もあります。

    長沼:最近、内田先生が所属する北海道大学とソニーグループが提携し、栄養素の循環をセンシング技術によって捉えていく取り組みが始まりましたよね。

    内田:はい。実証実験と並行し、土壌における栄養素の循環にまつわるデータ収集の効率化を進めています。牧畜で発生する窒素はあらゆる方法で外に流れ出てしまうものの、現段階ではデータ収集に大きなコストがかかってしまう。ここを変えていきたいんです。

    そうした共同研究を通じて、自然の生態系を100%活かした時に食の自給率や安全といった課題をいかに解決できるかに私個人としても挑戦していきたいと考えています。世界から見ると、日本はとても気候に恵まれた国です。雨がたくさん降るし、火山があるので本来は質が高くて厚い土を持っている。だからこそ、日本の気候や土を最大限活かした食糧生産の方法を考えていきたいんです。

     

    酪農が変わり、私たちの購買が変わる

     

    ──今回のGRAZE GATHERINGやFOREST REGENERATIVE PROJECTを通じて、目指しているのはどんな未来なのでしょう?

    内田:消費者が牛乳を選べるようになるといいと思っています。現状の牛乳業界の仕組みでは、消費者が「リジェネレイティブな放牧から生まれた牛乳がほしい」と望んでも購入できません。なぜなら、一般流通している大手の乳業会社は、たくさんの契約農家から牛乳を集めて、同じパッケージで商品化してしまうからです。しかし、小さい乳業会社であれば、個性を打ち出した牛乳を販売できます。数値としてリジェネレイティブであることを証明できる農家とだけ契約する尖った乳業会社がビジネスとして成長できれば、流通にも消費行動にもインパクトを生み出せるはず。

    購入の選択肢が増えると「なぜ自分はそれを選んでいるのか」「自分がこれまで選んできたものはどんな方法で作られていたのか」などに目を向けやすいと思います。少しでも環境負荷の低い食べ物を選ぶという行動につながっていくと嬉しいですね。

    札幌にある北海道大学のキャンパスからは盤渓の山が見える。

     

    ──消費者の選択の幅が広がり、その行動が環境負荷の低減につながる未来ということですね。

    内田:長沼さんともよく話すのですが、本物の乳製品を毎日、手軽に食べれなくてもいいのではないかと思うんです。記念日やプレゼントなどで食べる特別なものとして本物が残り、日常的には培養肉や植物性代替肉を食べる。それならば面積あたりの乳製品の生産高を最大化しなくても、酪農家さんが利益を出せる仕組みが必要です。牧畜は北海道の産業の柱のひとつ。純粋に生産拡大を目指すのではなく、構造や地域経済のあり方、法律など、さまざまなアップデートが必要になるでしょう。

    長沼:内田先生が先ほど触れていましたが、国外では放牧に特化したヨーグルトやバターを専門とする企業も存在します。私たちも、GRAZE GATHERINGを通じて放牧分野でさまざまな商品を展開し、放牧の魅力を広げていくことに取り組んでいきたいと思います。その第一歩として、GRAZE GATHERINGで毎月おいしい素材を届けることはもちろん、私たちのリジェネレイティブな挑戦をしっかりと伝えていきたい。未来を一緒に考えていくコミュニティになるといいな、と考えています。

     

    TEXT BY SHINTARO KUZUHARA
    INTERVIEW BY KOTARO OKADA
    PHOTOGRAPHS BY AKIYOSHI KITAGAWA


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