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農家の「環境再生型農業」への移行をサポートする、サンフランシスコ発のチョコレートブランド【The Regenerative Company:Alter Eco】

    リジェネレイティブアグリカルチャーを牽引する世界各国の企業を紹介し、その実践の最前線を伝えていく連載「The Regenerative Company」。第9回は、労働搾取や児童労働、森林破壊などのさまざまな問題とのかかわりが指摘されてきた「チョコレート」の原料となるカカオの生産において、先進的な取り組みを続けてきたサンフランシスコ発のAlter Ecoをご紹介。

    本記事は、ユートピアアグリカルチャーが提供する、美味しさと情報を届ける定期便「GRAZE GATHERING」に同封される冊子「GG MAGAZINE」からの転載になります。

     

    2022年5月から開始した「GRAZE GATHERING」はリジェネレイティブな放牧の可能性を伝え、共に考えていく取り組みです。4週に1度、2,280円(+送料)でユートピアアグリカルチャーが育てた新鮮な素材(放牧牛乳800ml,放牧牛乳ヨーグルト800ml,平飼いの卵8個入×2パック)と、地球と動物と人のより良い環境作りを目指す活動の報告、リジェネレイティブアグリカルチャーに関するコンテンツ記事をお届けします。

     

    ▷GRAZE GATHERINGの詳細・お申し込みはこちらから

    https://www.utopiaagriculture.com/products/graze-gathering/

    お菓子の代表格のひとつ、チョコレート。世界中で老若男女に愛されていますが、その原料であるカカオの生産については、労働搾取や児童労働といった人権問題や、モノカルチャー(単一栽培)や森林破壊などによる環境問題などとのかかわりが長年指摘されていました。

    近年ではカカオを適正な価格で継続的に取引するフェアトレードやトレーサビリティの推進なども行なわれていますが、それも十分とは言えません。例えば、環境保護や人権保護に取り組む29の団体が毎年イースターの時期に公開している「世界チョコレート成績表」の2022年度版では、調査対象となった世界のチョコレート会社38社のうち18社が「方針設定と実施にもっと取り組む必要がある」「業界に追いつく必要がある」という評価を受けました(3社は無回答/日本企業はそのほとんどが最低評価)。

    その一方、「トレーサビリティと透明性」「生計維持所得(生活賃金)」「児童労働」「森林破壊と気候」「アグロフォレストリー」「農薬管理」の6項目すべてで最高評価を取得した2社のうちのひとつが、米国発のチョコレート会社Alter Ecoです。

     

    環境再生型農業へのシフトを後押しするチョコレートブランド

    2005年にサンフランシスコで創業されたAlter Ecoは、USDAオーガニックやフェアトレードの認証を取得したチョコレートバー(板チョコ)やトリュフチョコを販売するチョコレートメーカーです。グルテンフリーやヴィーガン対応の商品が揃っていることから、健康意識や環境意識の高い消費者の間で人気を博しています(同名のフランスのチョコレートブランドとは無関係)。

    そんな同社が取引する農家の多くが位置するのは、カカオのふるさととして知られる中南米。良質なカカオ豆を産出している一方、大規模農業を原因とする熱帯雨林の破壊や単一栽培が多く行われてきた地域でもあります。

    こうした問題を少しでも改善の方向へ向かわせるべく、Alter Ecoが目をつけたのが環境再生型農業でした。同社はカカオの木と一緒に穀物や低木、果物の木などを植えるアグロフォレストリー(森林農業)に切り替えるサポートをし、環境再生型農業へのシフトを後押ししています、同社によると、2008年~2018年の間に農家たちと約27000本の木を植えており、カーボンニュートラルも達成しました。

    このアグロフォレストリーには、生物多様性や土壌の回復を促進できるという環境面のメリットのほか、農家は果実や木材など作物の種類が増えるので収入源が多様になるという利点もあります。Alter Ecoはアグロフォレストリーによって農家の収入は平均して25%増えると試算しており、農家たちはこれらの樹木を「退職金」と呼んでいるといいます。

    さらに2020年、同社は「Alter Eco Foundation」と呼ばれる財団を創設しました。2025年までに150万ドル(約2億147万円)を拠出して農家の環境再生型農業への移行をサポートするとしており、すでにAlter Ecoが取引しているエクアドルのカカオ農家1,800軒のうち約400軒の移行を補助しました

     

    「Alter Ecoのリジェネラティブカカオは、単一栽培された従来のカカオと比較して、20年間で1エーカーあたり83メートルトン多くCO2を吸収すると推定されます」と、Alter Eco Foundationのマネージング・ディレクターであるアントワーヌ・アンベールは話します。同財団の試算によると、もし世界のカカオ農家が同じようなモデルに移行すれば、毎年3,000万台の自動車が排出するのと同等の二酸化炭素が吸収されることになるといいます(なお、日本全国にある車は2022年8月時点で8250万台)。

     

    自社のバリューチェーン内で温室効果ガス排出量の削減を目指す「カーボンインセット」

    こうした環境再生型農業への取り組みによって同社が目指しているのが「カーボンインセット/インセッティング」。自社が出す温室効果ガスの排出を、自社の事業とは必ずしも関係のない温室効果ガス削減活動に投資することで相殺するカーボンオフセットに対し、カーボンインセットは自社のバリューチェーン内で排出量を削減することを意味します。

    「従来のカーボンオフセットが単に誰かがどこかで木を植えることを意味するのに対し、カーボンインセットは企業が自社のサプライチェーンに直接木を植えることを意味します」と、Alter Ecoはブログで説明しています。

    これまでカーボンインセットの動きは特にラグジュアリーファッションの分野で活発で、グッチやサン・ローランを傘下にもつケリングバーバリー、化粧品ブランドのロレアルなどがプロジェクトを発表してきました。

    ただし、Alter Ecoのような食品メーカーにとって、その効果は温室効果ガスの排出量削減にとどまりません。カーボンインセットを推進するInternational Platform for Insetting(IPI)が「カーボン・インセットは企業のサプライチェーン内で気候変動に対するレジリエンスを高め、サプライヤーが依存する重要な生態系の回復を助けられる」と書いているように、農業を通じて土壌を回復することで、サプライチェーン自体をより持続可能にできるからです。これは生育条件が非常に厳しく、気温上昇や干ばつの影響を大きく受けるカカオの産業全体にとって大きな意味をもちます。

    カーボンインセットの取り組みを通じて環境を再生しながら農家の生活を改善し、さらに将来のサプライチェーンの安定も図る──。そのために、Alter Eco Foundationは環境再生型農業に関するデータを収集しながら、保水力、作物の収穫量、土壌の炭素レベルといった環境面と、農家が受ける社会的な影響を調べています。

    同社の最高経営責任者(CEO)を務めるフォーブスはこう話します。「あまり評価されませんが、こうした取り組みが農家の幸福につながるのです。不平等と気候変動は、私たちの時代の2つの決定的な課題だと信じています。そして、再生農業はその両方に対応するものです」

     

    Text by Asuka Kawanabe