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「昆布」が環境再生の切り札になる? 炭素を吸収する“海藻チップス”をつくる12 Tides【The Regenerative Company】

    リジェネレイティブアグリカルチャーを牽引する世界各国の企業を紹介し、その実践の最前線を伝えていく連載「The Regenerative Company」。第8回は、海藻を原料にしたチップスを生産することで、海洋や地球の環境の再生を目指している12 Tidesについて。

    本記事は、ユートピアアグリカルチャーが提供する、美味しさと情報を届ける定期便「GRAZE GATHERING」に同封される冊子「GG MAGAZINE」からの転載になります。

     

    2022年5月から開始した「GRAZE GATHERING」はリジェネレイティブな放牧の可能性を伝え、共に考えていく取り組みです。4週に1度、2,280円(+送料)でユートピアアグリカルチャーが育てた新鮮な素材(放牧牛乳800ml,放牧牛乳ヨーグルト800ml,平飼いの卵8個入×2パック)と、地球と動物と人のより良い環境作りを目指す活動の報告、リジェネレイティブアグリカルチャーに関するコンテンツ記事をお届けします。

     

    ▷GRAZE GATHERINGの詳細・お申し込みはこちらから

    https://www.utopiaagriculture.com/products/graze-gathering/

    「二酸化炭素を吸収するもの」と聞いて多くの人がまず思い浮かべるのは、葉が青々と生い茂る森林かもしれません。しかしここ数年で注目が高まっているのが、海による炭素吸収です。

    海藻や海草、マングローブなどの海洋生物によって吸収される二酸化炭素は、2009年10月の国連環境計画(UNEP)による報告書で「ブルーカーボン」と命名され、研究が進められるようになりました。こうしたなか、近年は海藻を増やすことで積極的に環境を再生させていくリジェネレイティブな取り組みが世界各国で増えています。

    例えば、アメリカとカナダの国境付近にあたるセイリッシュ海で昆布や牡蠣の養殖場をもつBlue Dot Kitchenは、自社の昆布を使ってスナック菓子をつくっています。代替肉ブランドのAKUAは世界で初めて昆布由来の代替肉を使ったハンバーガーやジャーキーを生産し消費者を驚かせました。アラスカのBarnacle Foodsは、昆布を使ったピクルスやサルサといったソースを販売し、アラスカで長く受け継がれてきた昆布のレシピを広めています。

    サンフランシスコに拠点を置く12 Tidesもそうした企業のひとつです。同社は海藻を原料にしたチップスを生産することで、海洋や地球の環境を再生しようとしています。

    ほとんどのアメリカ人は昆布を食べ慣れていない

    12 Tidesの共同創業者であるパット・シュネットラーは、もともと商業漁業や水産養殖業の仕事に携わっていました。しかし、そこで彼が目にしたのは乱獲や海洋汚染など、人間の活動が海に与える壊滅的な影響の数々だったといいます。「私たちの海は限界に達しており、重要な海洋生態系の広大な地域が破壊されています」。

    どうにかして海の環境改善に貢献できないか。そう考えたシュネットラーが注目したのはケルプ(コンブ科に属する大きな海藻類をまとめた通称)でした。ケルプは海の生き物の餌や住処となるほか、杉の約5倍陸上の作物の平均20倍とも言われる量の二酸化炭素を吸収します。このケルプを養殖することで、海と陸両方の環境の再生に貢献できないかとシュネットラーは考えました。

    しかし、ここで課題が立ちはだかります。日本では食卓に欠かせない存在となっている昆布などの海藻類ですが、アメリカでは決して身近な食材ではないのです。「ほとんどのアメリカ人は昆布を食べ慣れていません。だから、おいしくて、敷居が低く、袋から出してそのまま食べられるものを作りたかったのです」とシュネットラーは話します

    そこで彼は昆布のうまみ成分を生かし、シーソルト味やチリ味のパフチップスを開発しました。カリウム、カルシウム、鉄分、ビタミンを豊富に含むこのチップスは、健康食としても優秀だと12 Tidesは宣伝しています。

    さらに、海藻には生産上のメリットもありました。「海藻の成長は早く、西海岸では1日に約1.5メートルも成長する種もあるほどです。私たちがスナックに使っている種はそれほど速く成長しませんが、4月に植えたら6月の上旬には十分に大きくなります」と、シュネットラーは話します。「水揚げしたら過剰な処理はしません。基本的には、養殖用の綱から外して洗い、清潔にして乾燥させればスナック菓子に使えるようになります」

    12 Tidesが原料に使っているケルプは、肥料も農薬も耕作地も淡水も必要としません。同社はこれを「ゼロインプット」と呼んでいます。「(海洋再生型養殖は)周囲の海洋生態系に全体でプラスの利益をもたらそうというものです」と、シュネットラーは話します。「わたしたちが養殖しているケルプや海藻はゼロインプットなので、水質改善にも役立つのです」。現在12 Tidesが提携する養殖場は1トンの炭素を吸収し、海洋酸性化による生物種への影響を低減しているといいます。

    「食糧システム」と「海」をつなぎ直す

    12 Tidesが提携する養殖場があるのは、メイン州フレンチマン湾。しかし、12 Tidesは利益の1%を寄付する「1% for the Planet」を通じ、アメリカ大陸の反対側にある世界最大級のジャイアントケルプ(オオウキモ)の森も守ろうとしています。

    ジャイアントケルプはほかの海藻同様に非常に成長が早く、この一体のケルプの森は熱帯雨林の20倍という大量の炭素を吸収・蓄積すると言われています。さらにこの森は、この海域に生息するラッコやコククジラなど800種以上の海洋生物にとっての住みかでもあり、避難場所であり、食料源としての役割を果たしています(さらに、サーファーにとっては良い波をつくってくれるというメリットもあります)。

    二酸化炭素を吸収し、水質の改善や酸性化の緩和、生態系の保護など多くのメリットをもたらしているジャイアントケルプの森。しかし、この数世紀で危機にさらされています。

    その発端は18世紀。ウニを捕食するラッコが良質な毛皮を目当てに乱獲されたことでした。ケルプを主食とするウニが急増したことによって、ケルプの森は海の砂漠化「磯焼け」と呼ばれる状態に陥ります。その後さらにウニの増加を抑制するヒトデが病気のまん延で激減。海洋熱波や気候変動、エルニーニョ現象が追い打ちをかけました。一部の沿岸地域では、2014〜2019年の間にケルプの約95%が失われたという報告もあるほどです。

    こうした状況は、生態系に危機的な状況を生み出します。「ケルプのないカリフォルニアの海岸は、木のないアマゾンのようなものです」と、サンタモニカ湾とその沿岸水域の復元と保護に取り組む非営利団体The Bay Foundationのエグゼクティブディレクターを務めるトム・フォードは、12 Tidesのブログで語っています。こうした問題に対処するため、12 Tidesは利益の1%をThe Bay Foundationとウニ除去プロジェクトを行なう非営利団体であるSeaTreesに寄付しはじめました。

    ケルプの養殖と保護活動。こうした取り組みによって12 Tidesは、食糧システムと海の関係を見直そうとしているとシュネットラーは話します。「私は海で起こっているあらゆる悪いことを目にし、食糧システムと海を結びつけるよりよい方法があると思いました。それこそ、わたしたちが12 Tidesで実現しようとしていることなのです」

     

    Text by Asuka Kawanabe