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「美味しい牛乳は、いい土から」ユートピアアグリカルチャーの若き酪農家が挑戦する循環型酪農とは。

近年、環境や動物への負荷が少なく持続可能な酪農の形として、自然の中で動物を放し飼いにする放牧酪農への注目が高まっています。ユートピアアグリカルチャー(以下、UA)でも放牧酪農によって、ストレスが少なく健康に育てた牛から取れる牛乳を、お菓子の原材料に用いています。

その牛たちを育てているのが、日高牧場の牧場主である工藤悟さん。日本では前例の少ないシェアミルカー制度 (*1) を利用してUAに就農しました。幼い頃から酪農家になることを目指し、高校卒業時には「理想とする酪農の形が描けた」と語るほど、酪農への情熱を持っている工藤さん。

今回の記事では、工藤さんがUAで酪農をすることになった背景。描いている、理想の酪農について。お菓子づくりの根本となる、牛乳づくりにかける思いを伺いました。

*1 シェアミルカー制度:企業オーナーと、実際の牧場経営者が異なる経営体制のこと。初期投資や設備はオーナーが用意し、牧場経営はミルカー(牧場主)が責任を持つ。技術はあるが、資金のない酪農家の就農に有効で、酪農大国ニュージーランドでは盛んに用いられている。

 

いい土、いい草、いい牛を育てる。

ーー工藤さんが酪農家になられた経緯を教えてください

僕の家は戦前から、北海道で代々酪農家を営んでいました。小学生の頃になると、牛舎で遊んだり、親の仕事を手伝うようになり、牛のいる生活が当たり前。一人っ子だったこともあって、自然と後継者として就農することを目指していました。

今やっているような放牧の形を目指すようになったのは、高校卒業くらいのとき。農学博士のエリック川辺さんが提唱する、循環を大切にした放牧の理論に魅了され、将来この理論を使って牧場を経営してみたいと考えていました。

 

ーー理想としている放牧とはどのようなものでしょうか。

僕の放牧は、環境の循環を保ちながら生産性を最大限高める「循環型酪農」(*2)を目指しています。 放牧は基本的に、牛の頭数と牧場の面積が決まっている中で、生産性をどれだけあげるかが勝負となります。しかし、それだけを求めすぎると、環境を破壊してしまったり、牛の健康を損なってしまう。利益になる搾乳量だけに着目するのではなく、いい土、いい草、いい牛を育てて、その先にあるいい牛乳を作っていくというのが中心的な考え方です。

*2 畜産や農業、家庭などで出る廃棄物を肥料に利用したり、ゴミを循環利用したりすることで持続可能な酪農を成り立たせる取り組み。工藤さんは、エリック川辺氏の開催するSRU(Soil Research Union)にて、多くの同士と共にこの理論を学び、牧場運営に活かしている。

土づくりの基本は足し算です。土の中の栄養素や微生物の量を科学的に分析して、不足している要素のみを肥料として撒くようにしています。そうしてできた肥沃な土では、健康な草が育ちます。そして、牛にはその草を好きなだけ食べてもらいつつ、生産量として足りない分のみ、農耕飼料を与えています。その結果牛が病気になるのを防げたり、一頭からとれる牛乳の量を増やすことができます。さらに、健康的な餌で育った牛から出る糞尿は、健康的な土壌づくりにつながっていきます。

このように、細かなデータ分析をしていくことで、土、草、牛の繋がりを正常にできます。すると、循環が成立し、低コストで、環境にダメージを与えない生産システムが実現できると考えています。

 

国の制度に独立をはばまれた結果、UAに出会った。

ーーそのような理想を持ちながら、個人ではなく、UAで牧場運営をされている理由はなんでしょうか?

家業を継ぐことを考えながら勉強していましたが、大学卒業のタイミングで、どうせなら自分でゼロからやってみたいと思い立ちました。しかし、新たに牧場を始めるには、国の制度が定める基準をクリアする必要があって。その一つに、原則夫婦でないといけないという項目があったんです。独り身だったため、個人事業主として牧場を始めることはできず、何か良い方法がないかと探していた際に、UAの長沼さんと出会いました。

当時UAは、牛の放牧ができる人材を探していた。そして、僕はシェアミルカーとして就農すれば、資金と設備をもらいながら理想とする牧場運営ができる。お互いの利害が一致し、一緒に経営していくこととなりました。

 

ーーオーナーの長沼さんとは、どのような関係性なんでしょうか?

初めて長沼さんと会った時の印象は、若くて勢いがあって、頭の回転の速い。いわゆるベンチャー企業の経営者っぽくて、僕らみたいな酪農家とは考え方が違う部分を持っていると感じました。

一番違いが大きかったのは、設備投資に対しての考え方です。家族経営でやっている酪農家の多くは個人事業主なので、そこまで大きな初期投資はしません。しかし、UAは初めから、全体の生産効率を高めるためにも、建物や設備、スタッフの雇用も積極的に行う方針を持っていました。企業としては当然のことだと思います。

経営に対する考え方において、そのような違いがありつつも、長沼さんは牧場運営に関しては制約を設けず、僕に任せてくれています。半分UAの役員、半分個人事業主の酪農家のようなスタンスで関わっているので、当然、経営としての結果が求められて大変な部分もあります。しかし、自分のスキルを生かしながら、自分の求める牧場の形を追求していけることにやりがいと楽しさを感じています。

シェアミルカーは僕のように、酪農の技術があるけれど、国の定める制度により新規就農が難しい方にとって良い制度だと思います。ただ、企業とパートナーシップを組み、シビアに成果が求められる部分もあるので、経営や放牧のスキルがあって、自信のある人じゃなければ向いていないかもしれませんね。

 

牧場運営は仕事であり、一生続く趣味。

ーーこれから、工藤さんやUAが目指すチャレンジについて教えてください。

6次産業をされている会社や牧場はありますが、実際の生産過程をデータとして明らかにしているところは多くはないと思います。差別化という意味でも、牧場運営で得られたデータを、UAや共同研究をしている北海道大学に共有していき、UAのお菓子が、環境に配慮され、健康的であるということを裏付けていきたいと思っています。お客さんに安心して選んでもらえたら嬉しいです。

ここまで3年間かけて、理想とする酪農の土台が整ってきました。土地をいくつかに区切って、条件を変えながら放牧をした結果、完成度の高い土地とそうでない土地ができました。その違いから取れたデータを元に、理想とする循環型酪農を完成させる環境を作っていきたいです。

きっと全てを完成させるには、2,30年かかると思います。毎年の気候や、土の状態によっても、放牧のやり方は全然変わるので、一年一年、勉強の積み重ねですね。時間も手間もかかりますが、僕は一生を通して突き詰めていきたいと思っています。僕にとって牧場運営は、仕事でありながら、好きな趣味でもありますから。


工藤 悟(くどうさとる)さん
2012年酪農学園大学卒(専攻は家畜飼料、栄養学)同2012年に実家の牧場に就農したが負債による経営継続困難の為離農。酪農スタッフの経験を経て、2018年ユートピアアグリカルチャーに入社。現在シェアミルカーとして牧場運営を行う。学生時代にエリック川辺農学博士の、ミネラルバランスを重視した草地管理技術に出会い、生態系と調和した放牧酪農の可能性を追求するようになる。また同氏が主催するSRU(Soil Research Union)に加盟し、土壌分析に基づいた草地の施肥管理と、ストッキングレートを重視した牧場運営の形を実践している。