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鶏肉の未来を変える「ゆっくり育つ」鶏【The Regenerative Company:Cooks Venture】

    リジェネレイティブアグリカルチャーを牽引する世界各国の企業を紹介し、その実践の最前線を伝えていく連載「The Regenerative Company」。第六回は、「ゆっくり育つ鶏」を生み出すことで、「アニマルウェルフェアの向上」と「環境負荷の低減」に取り組む米国のスタートアップCooks Ventureについて。

    本記事は、ユートピアアグリカルチャーが提供する、美味しさと情報を届ける定期便「GRAZE GATHERING」に同封される冊子「GG MAGAZINE」からの転載になります。

     

    2022年5月から開始した「GRAZE GATHERING」はリジェネレイティブな放牧の可能性を伝え、共に考えていく取り組みです。4週に1度、2,280円(+送料)でユートピアアグリカルチャーが育てた新鮮な素材(放牧牛乳800ml,放牧牛乳ヨーグルト800ml,平飼いの卵8個入×2パック)と、地球と動物と人のより良い環境作りを目指す活動の報告、リジェネレイティブアグリカルチャーに関するコンテンツ記事をお届けします。

     

    ▷GRAZE GATHERINGの詳細・お申し込みはこちらから

    https://www.utopiaagriculture.com/products/graze-gathering/

    日本の食卓を支えている鶏肉。その消費量は2012年に豚肉を抜き、日本でもっとも多く消費される肉となりました。世界でも同様の傾向にあり、国連食糧農業機構(FAO)とOECDが作成した「OECD-FAO農業アウトルック」によると2030年には世界のタンパク源の40%が鶏肉になると予想されています

    今、スーパーマーケットに並ぶ鶏肉の多くは「早く大きく育つ」ように品種改良されています。しかし米国の養鶏スタートアップCooks Ventureは「ゆっくり育つ鶏」を生み出し、よりおいしくよりサステナブルな鶏肉の生産を目指しています。

    工業的な食糧生産のツケが回ってきた

    Cooks Ventureは、2019年にマシュー・ワディアックによって創業されました。ワディアックはもともとシェフとして活躍しており、その後はミールキット配達サービスのBlue Apronも立ち上げます。

    シェフが考案したレシピと材料を家庭に届けるミールキットビジネスはいまでこそ米国で多くみられるサービスですが、2012年創業のBlue Apronはそのパイオニアの一社。このビジネスで250以上の農家や牧場主と提携していたワディアックは、よりサステナブルな養鶏のあり方考え始めたといいます。

    彼が注目したのは、養鶏場の多くが「ブロイラー」と呼ばれる鶏を育てていることでした。ブロイラーは短い期間で大きく育つよう品種改良された肉鶏の総称です。家畜化されていない自然界の鶏が成長に5カ月かかるのに対し、ブロイラーは50日前後で2~3kgにもなるので、早く出荷できるというメリットがあります。

    このブロイラーにはいくつか種類がありますが、世界で主流となっているのはアヴィアゲン社が開発した「ROSS」と呼ばれる鶏(日本では「チャンキー」と呼ばれることが多い)と、コブ社が開発した「コブ」のふたつです。「米国では市場に出回る鶏肉の系統の99%がアヴィアゲン社とコブ社に寡占されています」と、ワディアックは『Forbes』の取材で答えています。

    問題は、こうした鶏の餌にありました。ブロイラーの多くは、飼料効率を高めるためにモノカルチャー(単一栽培)で育ったトウモロコシや大豆を主に食べて育ち、工場のように出荷されます。飼料を育てる農地では、ひとつの作物を大量に栽培するために化学肥料や除草剤を使う品種に頼らざるを得なかったり、長年の栽培で農地が痩せてしまったりといった課題を抱えていることも多いのです。

    ワディアックはプレスリリースにこう書いています。「工業的な農業を維持しつつ気候変動に立ち向かうという選択肢はもはやありません。人口を支え気候変動に立ち向かうには、再生可能なシステムへと移行しなければならないのです」

    そこで同社は、米国の在来種3種類をかけ合わせて独自の種「パイオニア」を開発しました。ブロイラーに比べて成長は遅くなりますが免疫系と消化器官が強く、さまざまなものを餌にできるというメリットがあります。地元の農家が再生型農業で生産した非遺伝子組み換えの大豆やトウモロコシのほか、オーツ麦やひまわりの種、レンズ豆といった被毛作物も消化できるので、土壌の回復にも貢献できるのです。

    「わたしたちが求めているのは、動物に混合飼料を消化する能力を備えさせ、それを土壌の健全性と結びつけて利用するという共生のありかたなのです」と、ワディアックは話します

    このパイオニアは、筋肉が大きくなるように品種改良され飼育された従来の鶏と異なる食感をもつとワディアックは話します。「(従来の鶏肉は)調理すると筋っぽくなってしまいますが、それは筋肉細胞が大きいからです。わたしたちの鶏は筋肉の構造が細かいので、その肉はより柔らかくジューシーで、風味豊かになります」

    農業は樹木とセットでよりリジェネレイティブに

    Cooks Ventureの農場経営は、大きく分けて「アニマルウェルフェア(動物福祉)の向上」と「環境負荷の低減」のふたつを重視しています。アーカンソー州にある800エーカーの養鶏場では、鶏たちが朝から晩まで自由に放牧地に出られます。虫を追いかけたり地面をつついたりしながらさまざまな食糧を食べて育つので鶏健康で味わい深く、抗酸化物質やオメガ3、ビタミンA、オレイン酸などを多く含んでいると同社は謳っています

    また、再生可能型農業に力を入れる同社では、自身の敷地で林間農業(シルボパスチャー)を実践しています。樹木を農業に取り入れる林間農業は、土地の健全性を高め、炭素の吸収量を増加させるとされている伝統的な農法です。世界22カ国の研究者が参加し地球温暖化対策の効果を測定した「プロジェクト・ドローダウン」は林間農業について「コストと時間がかかる一方で不規則な天候や干ばつの影響を和らげるのにも効果的である」と評価しています

    同社の放牧地には、ヘーゼルナッツの木21,000本に加え、桃や梨、ポーポー、リンゴなどの果樹1,000本が植えられており、今後はさらに樹木の種類を増やしていく予定です。こうした木は鶏たちに日陰を提供しているほか、樹木のある牧草地はそうでない牧草地に比べて5~10倍の炭素を吸収し、土壌の回復にも役立ちます。

    農場におけるアニマルウェルフェアと環境負荷の低減に加え、同社が重視しているのが透明性です。彼らは垂直型農業を徹底しており、養鶏から飼育、加工、出荷までを自社で一気通貫で行っています。2022年春からは第三者認証企業であるFood In Depthとの提携も発表し、自社の鶏の飼育に抗生物質や遺伝子組み換えの飼料が使われていないことを証明しています

    ワディアックは言います。「より透明性が高く、人の健康のためにもなるスローフードや動物の需要は、食分野で最大の新興分野だと言えるでしょう」

    「安さ」を求めなくていいからできること

    Cooks Ventureは育てた鶏肉を自社のウェブサイトのほか、食料品店や飲食店で販売しています。その価格は普通の鶏肉よりも少し高価で、米国のオーガニックチキンと同程度です。「わたしたちの鶏肉は少しだけ高値をつけられます。それを研究や高品質な穀物づくり、労働者への賃金や生態系の多様化に投資し、さらにビジネスとして健全なマージンを得られるのです」と、ワディアックは話します。

    こうしたスローな養鶏と再生可能型農業を組みあわせた同社の農業に対しては、投資家からも熱い視線がそそがれています。2022年、同社はベンチャーキャピタルであるSJF VenturesとCultivian Sandboxが主導するシリーズAラウンドで1,000万ドルの資金調達に成功しました。

    同社は今後この資金を使って鶏の生産を拡大するほか、パイオニア種をほかの養鶏場にも広めたいと考えています。暑さに強く、さまざまな餌を食べて育つこの種は、猛暑に襲われる地域や食料不足に悩む地域の助けになるのではないかとワディアックたちは考えているのです

    とはいえ、「早く大きく」という工場的な畜産・農業システムから、「ゆっくりサステナブルに」という新しいフードシステムへのシフトは、数年で達成されるものではありません。その点はワディアックももちろん理解しています。「わたしたちは、長い長い時間を必要とするプロジェクトに取り組んでいるのです」