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GUIDE TO FOREST GENERATIVE PROJECT 日本型リジェネレイティブアグリカルチャーは、ここから始まる

    「地球にも動物にも人にも美味しい環境作り」を掲げ、CHEESE WONDERやGRAZE GATHERINGを皆さんにお届けしてきた、わたしたちユートピアアグリカルチャー社。放牧酪農によって日本型リジェネレイティブアグリカルチャーの実証に取り組むなかで、このたび札幌市の盤渓にて土地を取得し、モデルファームの建設を進めてきました。完成したモデルファームの全貌をお届けします!

    本記事は、ユートピアアグリカルチャーが提供する、美味しさと情報を届ける定期便「GRAZE GATHERING」に同封される冊子「GG MAGAZINE」からの転載になります。

     

    2022年5月から開始した「GRAZE GATHERING」はリジェネレイティブな放牧の可能性を伝え、共に考えていく取り組みです。4週に1度、2,280円(+送料)でユートピアアグリカルチャーが育てた新鮮な素材(放牧牛乳800ml,放牧牛乳ヨーグルト800ml,平飼いの卵8個入×2パック)と、地球と動物と人のより良い環境作りを目指す活動の報告、リジェネレイティブアグリカルチャーに関するコンテンツ記事をお届けします。

     

    ▷GRAZE GATHERINGの詳細・お申し込みはこちらから

    https://www.utopiaagriculture.com/products/graze-gathering/

    札幌市の中心地から車で20分。200万人都市とは思えないほどの豊かな自然の中にある盤渓エリアで「多様な動物と植物による森の活性化」のモデルファーム「FOREST REGENERATIVE PROJECT(以下FRP)」がスタートします。盤渓はスキー場として知られる標高の高い場所で、一帯は森に覆われています。ここにまずは鶏舎と牛や馬が休める場所、卵の出荷施設をつくります。鶏の体に負担をかけない鶏卵を育て販売しながら、山地には牛を放牧。「死んだ森」を蘇らせていくノウハウを蓄積し、その先には森林の再生による温室効果ガスの吸収と農業の事業性の両立を目指しています。このプロジェクトには、北海道大学大学院農学研究院准教授の内田義崇さん、DOMINO ARCHITECTS代表の大野友資さん、研究者の片野晃輔さん、クリエイティブスタジオnomenaの武井祥平さんの4名が関わってくれています。

    二酸化炭素を吸収し、食糧生産の場になる「森林」

    「FRPは、二酸化炭素を出しながら暮らす人類のライフスタイルをガラッと変えていくチャレンジだと考えています。いま私たちが真剣に考えなくてならないのは『持続可能な地球環境を守りながら食料を生産する方法』であり、その答えのひとつが『肥料がなくても育つ植物を最大限利用する』ことだと考えています。人間が生きていくためには、必ず食料が必要です。しかし、現代の食糧生産は、化学肥料と化石燃料に依存している。つまり、気候変動の引き金になっている二酸化炭素を大量に排出しながら、私たちは食事をしているわけです。このライフスタイルから脱却するには森林を活用し、そのポテンシャルを最大限に活かすことが重要だと思うんです」

    共同研究者としてユートピアアグリカルチャーに長く関わっており、FRPにおいても中心的な役割を果たしてくれる内田さんはこのように語ります。今回、森林に注目した背景にはいくつかの理由があります。まず、二酸化炭素を吸収してくれること。植物の光合成による効果はもちろん、土壌を豊かにすることを通じてその吸収量を増やせるのではないかと期待されています例えば、牛や馬などの多様な動物が森で暮らし、草花を食べ、ふん尿をする。それは分解され、植物や微生物の養分となりまた森が育つ。こうして土壌が豊かになると、土の中にも二酸化炭素を閉じ込めておけるようになるのです。

    それに加えて、「森林はエネルギー源にもなる」と内田さんは語ります。「例えば、木になるリンゴやクリ、足元に映えるキノコ。二酸化炭素を吸収しながら、私たちの食料生産をしてくれる森林は、人間にとって非常に貴重な存在です」

    しかしながら、多くの日本の森は「死んで」います。林業事業者の減少などで整備が行き届かず、その能力を十分に発揮できていない現状があります。さらに、森林の二酸化炭素吸収量は、木の年齢に大きく依存します。若い木のほうが吸収量が多く、50年も過ぎた木はほとんど吸収しません。つまり、定期的に古い木は切って他の資源として活用し、若い木を中心とした森を維持することがいま求められているわけです。

    日本の国土は約70%が森林であるがゆえに、森林が変わることでのポジティブな影響は計り知れません。……いえ、計り知れないのではなく、きちんと測っていくこともFRPの重要なポイントです。何グラムの二酸化炭素を土に貯めることができたのか、何グラムの上質な食料が森林からつくれたのか。それらの量的な変化は何に起因するのか。数年かけて森林の成長や土壌の炭素循環、微生物の数値を記録・分析し森林の活性度を図る実験を行うことで、よりリジェネレイティブな食糧生産の方法を探求していきたいと考えています。

    牛や鶏、生態系のための建築を

    今回のモデルファームの全体設計や建築部門を担当してくれたのは、国内外で活躍するDOMINO ARCHITECTS代表の大野友資さん。マンションのリノベーションから、渋谷のコワーキングスペース「SHIBUYA QWS」の空間設計、インスタレーション作品まで幅広く手掛けている気鋭の建築家です。

    まず目を引くのは、ビニルーハウスのような建物。通常の透明なビニールハウスではなく、熱を反射するシートを張って熱を遮ったり、天窓になる空間を設けたり、鶏を飼うためのカスマイズを施しています。

    「もっとも大切にしたのは、この場所・この風景にリスペクトを持ち、土地に根付いた建築をつくることでした。最初に盤渓を訪れたとき、農作業をするための道具が詰まった小屋があったんです。それは土地の所有者だったおじいさんがDIYで建てたものなのですが、そのスケール感が土地に合っていると感じました。だからこそ、大きくて立派な鶏舎ではなく、農業で使うビニールハウスを応用した鶏舎をつくることにしたんです」

    大野さんは設計にあたり大切にしたポイントをこのように語ります。また、鶏舎の中にケージはなく、鶏が自由に動きまれる平飼い用の鶏舎をオリジナルで建てています。その際に大切にしたのが、「人間以外のための建築をつくる」ことでした。

    「私はいままで『人のための建築』をずっと手掛けてきました。今回は、牛や鶏、植物や生態系、さらに山や森などの場所そのものがクライアントだったんです。『建築』という概念のあり方を見直すためのいい機会になりましたし、鳥小屋や虫かごなど、これまで気に留めなかったものに視点が行き届くようになったんです。この場所を訪れる人にも新しい視点やアイデアを持ち帰ってもらえると嬉しいなと思いますね」

    「鑑賞」に加えて「活用」できるランドスケープの設計

    続いて、ランドスケープ・デザインにおいてはその土地の特性とそれに合う植物を選定しました。例えば、敷地近くに沢があるため、長期的に土留が必要になりそうな箇所には、それに向いた植物を優先的に選んでいます。また鶏舎の中は、鶏の自生地であるインドネシアの里山をイメージしています。植物の選定にあたっては、盤渓を皮切りとして北海道全域での植物の利用の歴史などを調査し、札幌の寒さにも耐えることができるか、鶏が食べても問題ないかなどを検討したそうです。その結果、30種類以上の植物が植えられています。

    こうしたランドスケープの設計を担当したのは、研究者である片野晃輔さん。片野さんは「拡張生態系」や「協生農法」という考え方に出会い刺激され、現在は生態系構築ユニットとしても活動しています。

    拡張生態系とは、人間が積極的に関わることで自然のままに放っておくよりも生態系が豊かになる関係性のこと。例えば、生えすぎたハーブを人が収穫することで、他の植物の住処が確保され、より多様な生態系を生むといった例が挙げられます。協生農法は、拡張生態系の農業におけるアプローチのひとつ。多様な植物を混生・密生させた中で農業をすることで、収穫しながら生物の多様性を豊かにすることができるという考え方です。

    そうした研究を続けてきた片野さんだからこそ「日々の営みを通して生態系との関係を再確認し、自ら役割を見つけ出してほしい」という思いをランドスケープに込めたそう。

    「ランドスケープを構築するのと同時に、植物や景色をきっかけに生態系との関係性を認識してもらいたいと思ったんです。ただ眺めるための場所ではなく、そこを活用することで学べる仕組みもつくっています。例えば、いまお菓子づくりに活かせるように食べる植物も多く植えており、ユートピアアグリカルチャーの皆さんにはここで植物をつまみ食いしながら、新しいお菓子を開発するためのフィールドワークの場所としても活用してもらえたら最高ですね」

    平飼い卵の自動販売機

    こうした建築やランドスケープの設計思想とともに大切だったのが、盤渓を訪れた人に「体験」を提供し、人々がこのモデルファームに足を運びたいと思える場所にすることでした。そのためにまず、採れたての卵を販売する自動販売機を置いています。

    採れた卵をケースに入れて並べた自動販売機は、どのケースを買うか自分で選べるようになっています。卵をちゃんと見る、卵と向き合うという体験を経てから実際の購入に進む設計になっています。こうしたデザインを担当したのは、東京2020オリンピック・パラリンピックで聖火台のエンジニアリングにも関わったクリエイティブスタジオnomenaの武井祥平さんです。

    「デザインにあたっては、『どうすれば買ったものへの思い入れが大きくなるだろう』『より人間らしいものの買い方って何だろう』そんな問いからはじめました。現代社会を生きる私たちは、ものを買うことに慣れすぎていて『購買』という自分の行動を考え直すことはあまりないと思うんです。でも、買ったものが本当に良いものかどうかはわからないし、画一的だと思っているものにも実は違いがあったりする。普段の購買では見えてこないけど実は大切な要素をどうやって体験してもらうか。ここに時間をかけて検討を重ねたんです

    今後は、GRAZE GATHERING(以下GG)メンバーのためのオープンデイなどを設けて、足を運んでもらえる機会をつくりたいと思っています。ほかにも、例えば宿泊施設やレストランなど、今後さらに体験の場をつくれないかと構想しています。また、GG MAGAZINEやニュースレターを通じて実験の経過などを随時お伝えしていきます。オンライン・オフラインの両面からインタラクティブな交流ができるコミュニティへと発展させてしきたいので、これからの展開をどうぞお楽しみに!