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健全な土なくして、健全な社会はあり得ない:「リジェネレイティブ・アグロフォレストリー」による地域再生【The Regenerative Company:reNature】

    リジェネレイティブアグリカルチャーを牽引する世界各国の企業を紹介し、その実践の最前線を伝えていく連載「The Regenerative Company」。第二回は、農地に樹木を植えて管理しながら、その間の土地で農作物の栽培や家畜を飼う「アグロフォレストリー」を通じた再生に取り組むreNatureについて。

    本記事は、ユートピアアグリカルチャーが提供する、美味しさと情報を届ける定期便「GRAZE GATHERING」に同封される冊子「GG MAGAZINE」からの転載になります。

     

    2022年5月から開始した「GRAZE GATHERING」はリジェネレイティブな放牧の可能性を伝え、共に考えていく取り組みです。4週に1度、2,280円(+送料)でユートピアアグリカルチャーが育てた新鮮な素材(放牧牛乳800ml,放牧牛乳ヨーグルト800ml,平飼いの卵8個入×2パック)と、地球と動物と人のより良い環境作りを目指す活動の報告、リジェネレイティブアグリカルチャーに関するコンテンツ記事をお届けします。

     

    ▷GRAZE GATHERINGの詳細・お申し込みはこちらから

    https://www.utopiaagriculture.com/products/graze-gathering/

     

    「CO2吸収」と「生物多様性の維持」を両立

     

    手つかずの自然に対して人為的に改変を加える農業は、その性質上、環境に対して何かしら影響を与えることを避けられません。

    必要以上に用いられる農薬や除草剤、化学肥料、非伝統的で無計画な焼畑、そして森林を伐採したうえでの大面積での単一栽培など、これまで農作物を効率よく収穫するために使われてきた技術や手法は、最近では生態系に悪影響を与えることが指摘されており、熱帯雨林破壊の大きな一因にもなっています

    とはいえ、農業はわたしたちの生活に欠かせないものです加えて、今後世界の人口が増加し続ければ、食糧需要はさらに高まっていくでしょう。どうにかして、環境や生態系を守りながら食糧需要に応える方法はないのでしょうか?

    こうした視点から生まれたのが「Agriculture(農業)」と「Forestry(林業)」を組み合わせた「アグロフォレストリーと呼ばれる手法です。

    1970年代にカナダ国際開発研究センターの林学者ジョン・ベネによって提唱されたアグロフォレストリーは、農地に樹木を植え、管理しながら、その間の土地で農作物を栽培したり家畜を飼ったりする農業を指します。

    例えば、防風林を植樹しながらカカオや果物、ゴム、コーヒーなどを栽培し、さらに牛やヤギ、鶏などの家畜を育てるなど、森林と農業の融合が特徴的な農法です単語こそ新しいものの伝統的な農業でも多く採用されてきたこの手法は、生物の多様性を守り、二酸化炭素を吸収しながらより生産的な土地利用ができると期待されています。

     

    リジェネレイティブ・アグロフォレストリー」とは?

     

    このアグロフォレストリーを推進しているのが、オランダの団体「reNature」です。共同創業者のひとりであるブラジル出身のフェリペ・ヴィレラは19歳でアマゾンを訪れ、農業と熱帯雨林の関係に興味をもったと言います。

    「アマゾンの地元の住民たちがもつ森林管理の知識に感動すると同時に、自然がもつ英知と資源の豊かさにも驚かされました。でもその帰り道、アマゾンの熱帯雨林の端で大規模な森林伐採が行なわれているのを見たんです。数千ヘクタールにも及ぶ熱帯雨林が、大豆や畜産業、木材の採集のために破壊されていました」。彼はTEDで当時のことをこう振り返っています

    その後、カカオ農場でアグロフォレストリーの手法に出会ったヴィエラは、オランダ出身のマルコ・デ・ブールとともに2018年にreNatureを創業します。その目的は、リジェネレイティブ農業(環境再生型農業)とアグロフォレストリーを融合した「リジェネレイティブ・アグロフォレストリー」を広めることでした。

    ヴィエラらはその意味をこう定義しています。「リジェネレイティブ・アグロフォレストリーとは、サステナビリティを超えた『再生』というビジョンと、樹木がもつさまざまな機能を生かす『アグロフォレストリー』という手法を組み合わせた農業的アプローチで、スマートかつ効率的、そして包括的な方法でさまざまな農業生産システムを改善するもの」

    同社がアグロフォレストリーのなかでも特に「再生」を重視した手法を推進するのは、自然が過去に農業にから受けたダメージを解消する必要があるからなのだと、reNatureのサイエンス&リサーチコーディネーターを務めるヴァース・ティーセンはブログのなかで語っています

    「定義上、サステナビリティの目的はある状態を『維持することです。しかし、現代に生きる私たちは人間の活動によって大きく変化してしまった世界に住んでいます。リジェネレーション(再生)は、そうして搾取されたものを補い、ダメージを受けたものを修復するという概念なのです」

     

    農家の収入が2倍になったケースも

     

    1950~60年代、人口増加にともなって増えた食料需要をまかなうため、伝統的農業に代わる農法の採用や穀物を大量生産できる品種の栽培がアジア地域を中心に進みました。「緑の革命」と呼ばれるこの農業改革は、食料生産の向上という意味で大きな成果を見せたものの、収穫量の大幅な増加は1990年代以降減速してしまいます

    その一方、農法の変更や化学肥料の大量使用など広範囲な土壌に手が加えられた結果、土壌への負荷は大きくなってしまいました。ある調査結果では、世界の耕作地の38%で土壌の劣化が見られていると推計されているほどです。それゆえ、reNatureではただダメージを与えずに安定した状態を維持するだけではなく、土壌の健康を積極的に回復させる必要があると考えています。

    では、その先にどのようなメリットがあるのでしょう? まず挙げられるのは、生物の多様性の向上、そして農家の収入の増加です。

    例えば、reNatureは土壌を再生するために被覆作物の利用をすすめています。地面を覆うように茂る性質をもつ被覆作物を植えると、土壌を健全にしたり流出を防ぐだけでなく、害虫や雑草から換金作物を守ったり、換金作物以外も育てることで多様性を高める役割を果たすのです。これは生物多様性の増加につながるほか、収穫量の増加にも一役買います。

    また、単一栽培から複数の植物や家畜を並行して育てるアグロフォレストリーのアプローチに切り替えることで、農家は短期的な収入を得られる商品と長期的な収入を得られる商品を同時に育てられます。

    これは異常気象や害虫の発生といった予期せぬ事態への対策にもなるほか、収入源の多様化につながるでしょう。例えば、ボリビアインドではアグロフォレストリーの手法によって農家の収入が2倍になったケースもあります。また、植林した樹木の落ち葉や枝は、その後に自家製の肥料として活用できます。

    メリットはそれだけではありません。reNatureはリジェネラティブ・アグロフォレストリーによって得られる効果として、生産性の向上や生物多様性の確保、土壌の回復のほか、女性のエンパワーメント動物の健康カーボンクレジットによる収入なども挙げています。

     

    モデルファームを起点とした土地の再生

     

    こうしたメリットを世界に広めるために、reNatureは農家に対するコンサルタントやスクールのほか、モデルファームというサービスを展開しています。農業のあり方は、農家や作物、地域ごとに全く違います。それゆえ、リジェネラティブ・アグロフォレストリーを促進するうえで状況にあったモデルを構築することが不可欠です。

    そこで、reNatureは地域や農家に合わせてモデルファームをつくっています。これは、ひとつかふたつの換金作物とほかの生物を組み合わせてつくる小さな農場で、リジェネラティブ・アグロフォレストリーのメリットをその目で見て実感してもらい、その方法を体験しながら学んでもらうための場です。

    例えば、reNatureはインドネシア西部のバンカ島に1.2ヘクタールのモデルファームをつくりました。オランダの香辛料会社Verstegenと共に行なわれたこのプロジェクトで焦点となったのは、コショウです。

    これまでバンカ島のコショウ農家の大半はコショウだけを育てるプランテーションを運営してきました。しかし、土壌の劣化や気候変動の影響で生産性が低下。さらにホワイトペッパーの価格下落も追い打ちとなり、農家の収入が減りました。それゆえ、農家はどうにか収入を得ようとコショウの生産からアブラヤシやゴムの栽培に切り替えたり、危険なスズの違法採掘に手を出したりしていたのです。

    そこでreNatureは、リジェネラティブ・アグロフォレストリーを取り入れてどうにか農家がコショウ栽培を再開できる方法はないか考え始めます。モデルファームとして選ばれたのは、土壌の劣化で放置されたゴム農園でした。もはや使い物にならないと思われていたこの区画で、reNatureは30人の農家にリジェネラティブ・アグロフォレストリーの訓練を提供し、コショウのほか、バナナなど食用作物や在来植物を含む19種類の樹木を栽培するモデルファームを運営し始めました。

    これにより、いまこの区画は生産性を取り戻しつつあるといいます。また、モノカルチャー農場よりもはるかに多様な植物を無農薬で育てるこのモデルファームは多様な動物の生息地となっており、二酸化炭素の吸収や干ばつの防止といった面でも環境に貢献しています。まだ1.2ヘクタールの土地での取り組みに過ぎませんが、これが島にいる500軒のこしょう農家にも広がれば大きな変化をもたらすでしょう。

     

    健全な土なしに健全な社会はあり得ない

     

    こうした同社の活動を支えるのは投資家です。2021年、reNatureはアムステルダムのインパクト投資ファンドMeraki Impactが主導したシードラウンドで67万ドル(約8,585万円)を調達しました。また同年には、食品大手のネスレや英国のナチュラルコスメブランド・Lushとリジェネレイティブなサプライチェーンづくりで提携を発表しています。同様の提携は、ダノンやユニリーバ、LVMH、シャンドンなどとも結ばれました。

    『Fobes』のインタビューのなかでヴィレラは下記のように語っています。「reNatureは技術的な支援を行っていますが、力を貸してくれる金融機関や銀行、投資家、慈善団体も探しています。reNatureのプロジェクトの中には、初期段階で資金を必要とするものがあるのです。現在、プロジェクトに対する投資ファンドや助成金、企業パートナーの可能性を検討しています

    reNatureの目下の目標は、2030年までに100万ヘクタールの土地をアグロフォレストリーで再生すること。そこまでの道は険しいだろうが、それでもリジェネレイティブ・アグロフォレストリーなくして未来はないとヴィエラたちは考えている

    「健全な土なしに健全な社会はあり得ないと、私は心から思っています。土を正しく扱わなければ、健全な地球、健全な社会生きことはできないのです」

     


    文・川鍋明日香

    ライター、編集者、翻訳者。雑誌編集部所属の後、2017年の渡独を機に独立。『WIRED』日本版や『VOGUE JAPAN』を始めとする様々なメディアで、テクノロジーからカルチャー、ビジネス、社会問題まで幅広いテーマについて取材・執筆している。最近家族のなかでビーガン餃子が流行中。