「森づくり」による都市再生
気候変動や環境問題がより深刻化する一方、 「いかに二酸化炭素を排出せずに食料をつくる か」が重要になっています。お菓子やその原材料 をお届けしているユートピアアグリカルチャーでも、持続可能な地球環境を守りながら食料を生産する方法を検討し、2022年10月から「FOREST REGENERATIVE PROJECT」というプロジェクト に取り組んできました。

このプロジェクトは、札幌 市の盤渓に「盤渓農場」をつくり、林間放牧など のアプローチによる森林の活性化を通じて、森林 を再生。温室効果ガスの吸収と農業の事業性の 両立を目指したものです。
こうした動きは、いま日本各地で起きつつあり ます。なかでも今回注目したいのが、都市部における森林再生や、小さな森を育てていくという取り組みです。
生活者の方々がアクセスしにくい山 間部ではなく、都市のスキマにおいて自然と触れ 合い、自然を増やしていこうとする試みは、私たちの生活にどのような影響を与えるのでしょうか。

2024年4月、東京・代々木上原にて日本初の シェアフォレストサービス「Comoris(コモリス)」 のコンセプトモデルが誕生しました。Comoris は、都市の空き地や遊休地を活用して小さな森を つくり、様々なアクティビティを楽しみながら森づくりをする会員制のシェアフォレスト。一般募集 で集まったメンバーと運営者を含め15名が参加 し、会員証としてNFT(非代替性トークン)を保有。 メンバー全員が一人一票の意思決定権をもつコ ミュニティとして運営されています。

Comorisには、近隣の鎮守の森である代々木八幡の植生や 地域の潜在自然植生を参考にしながら、クヌギや コナラ、シラカシなどの多様な植物が植えられています。
多様な人と生物が行き交う場所
そんなComorisを運営するのは、自然と都市 の間に心地よい循環をつくるためのデザインリサーチラボ「Actant Forest」と新しいまちの風景 をデザインするNEWPARK 社。
運営メンバーの ひとりであるActant Forestの南部隆一さんは、 Comoris初の実装地に代々木上原を選んだ理由 をこう話します。「商店街と住宅地が交わる中間 点で人通りが多いこと、そして土日は地域外の人 も訪れる活気ある街であること。つまり多様な人が行き交う場所であることを重要視しました」シェアメンバーは、それぞれに「パーソナルプランター」と呼ばれる小さな専用プランターをもち、その中でハーブや野菜、果樹など、各々が自由に植物を育てています。

このプランターをDIYするところから楽しむこともできるそうです。また、毎週土曜日の午前にはメンバーが集まって、環境改善などの森のメンテナンスや収穫したハーブでカクテルを楽しむなど、多様な活動が行われています。
最近では、近隣住民の方が子供と遊びに来たり、犬の散歩の途中で、ペット用の「うんちコンポスト」を利用しに来る人もいるなど、街にも広く開かれた場になっています。

南部さんは、Comorisでの活動を通してメンバーや近隣住民の人々が、自然を身近に感じる体験をすることが重要だと語ります。「メンバーの方は『買って使う』から『つくって使う』に、『買って食べる』を『育てて収穫して食べる』、『散策して採って食べる』に変えるという体験をしています。
そういった行動の変化を通して、街全体の自然への解像度が上がるような体験を提供したいんです」さらに、南部さんは都市部での森づくりの可能性についてこう話します。「都市部では隣地の枯れ葉が迷惑行為となるため、口論が起きたり、落葉樹が伐採されたりします。しかし、環境改善をしていると、(有機物として土壌を豊かにする)枯れ葉が宝物に見えるようになります。

今後世界的には都市の人口が増えていくなかで、都市生活者の価値観や小さな行為の変化が、たとえ遠回りであっても地球の抱える大きな課題の解決に資するのではないでしょうか」一方で、森づくりに参加するハードルを下げることも重要になっています。そのためのアプローチについて、南部さんは次のように語ります。「今後コミュニティをどこまで広げていくかは検討段階ですが、今後よりまちに開いた場にしていきたいと考えています。
例えば、地域の経済的格差が緑地面積の多寡と相関するという研究結果があるのですが、緑地面積の少ないエリアにComorisをつくることができれば、その周辺住民にとっての憩いの場、心的・身体的体験価値が向上する機会を提供できるかもしれません。そのような広い社会的インパクトのポテンシャルはあると思いますし、それを目指しています」
「アーバンフォレスト」が目指す未来
都市部の森は「アーバンフォレスト」とも呼ばれ、世界の各都市でも様々な活動が進んでいます。ロンドン市では、都市の生態系を復活させるための再野生化(リワイルディング)プロジェクトが発足。
近年は野生のビーバーの復活や、大規模な緑地化が進められています。スペインでもバルセロナ市が2037年までに市の緑化率を5%アップさせるマスタープランを実施中。マドリード市では10年間で200万本の木を植え、全長75kmの森林地帯「メトロポリタンフォレスト」をつくる計画が進んでいます。
都市部の緑を増やすことは、生物多様性の保全だけでなく、都市環境の改善にも寄与しています。緑地が増えることで、都市の気温上昇が抑えられ、空気の質が向上するほか、市民が自然と触れ合うことで、健康にもよい影響を与えることが期待されています。

日本においても、都市部の緑化が果たす役割は大きくなっています。一方で、都市部における新たな森づくり、そのためのコミュニティの醸成には、一過性で終わらない息の長い活動、スキームも重要になっています。
南部さんは今後のComorisの活動について、次のように見据えています。「駐車場や都市の空地をシェアフォレストとして活用することで、多様な人が関わるコミュニティづくりにつながると考えています。ゆくゆくは東京から離れた山林のサテライトフォレストのような役割をComorisが果たし、関係人口の増加に貢献するようなサービスにできると良いと思っています。不動産ディベロッパーや行政などとの協業にも可能性があると思います。
例えば、BtoBtoCによる再開発用地の事前活用など、そこで生物多様性と多様なメンバーからなるコミュニティを醸成したうえで、再開発後のエリアマネジメントに接続することができれば、より大きなインパクトを出していけるのではないでしょうか」