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「冬の牧場」について知る

牧場と聞いて多くの人が思い浮かべるのは、草が青々と茂った春や夏の姿かもしれません。
その一方で、なかなか想像しづらいのが冬の牧場の様子です。「冬の酪農場も夏と変わらず忙しく、乳しぼりや子牛の世話が毎朝毎晩おこなわれています」。

そう話すのは、北海道大学農業学部准教授の内田義崇さん。北海道にあるユートピアアグリカルチャー(以下、UA)の牧場で、UAと一緒に環境再生型農業の実証実験に携わってきました。

冬の牧場での過ごし方


では、ウシたちは冬をどのように過ごしているの でしょう?実は、ウシにとって冬は比較的過ごし やすい時期なのだと内田さんは説明します。
「ウシは暑さにとても弱い生き物で、気温が25℃を超 えるとストレスを感じ始めるんです。体温が38℃ から39℃と高く、草などのエサを消化するのに熱 が発生することが関係しています」。

夏の暑さで ストレスを抱えたウシは乳量が減りがちで、牧場 経営を圧迫する原因にも。そう考えると、冬はウ シにとっても酪農家にとっても、熱のストレスから 解放されるよい季節だと言えるでしょう。 UAの牧場では、夏季は昼夜通しての放牧を行 いますが、冬季は夜間の寒さが厳しいことから朝 と夜の搾乳の間にウシたちを放牧しています。

冬は牧草地に青草はなく、枯れ草の上に雪が積もっている状態。息が白くなるほどの寒さですが、ウシにとって耐えがたい環境ではなく、昼間のウシ たちはのびのびと過ごしています。寒くなったら、集団で集まって暖をとることも。 ただし水が凍るような寒さの場合、ウシたちの 命をおびやかす危険も潜んでいます。「例えば水 飲み場。水が凍ってウシが水を飲めなくならない よう、水を温めたり氷を割ったりする必要があります。

UAでは流水を流して凍るのを防いでいます。 また、放牧してウシが歩き回る場合は、ウシが凍った草で滑らないよう注意が必要です。実はウシが滑って亡くなってしまう事故は概して多いんですよ」
10月ごろから牧草が育たなくなる北海道では、寒さが増すにつれてウシたちが牛舎の中にいる時間が長くなります。この間の食事は、春や夏の間に収穫して発酵させた草や穀物。「牧草が育って食べられる状態になるのは5月ごろからなので、ウシたちも人間と同じように春を待ち遠しく思いながら屋根の下で暮らしているのかもしれません」と内田さんは話します。とはいえ、それは放牧をしている場合のお話。
ウシはエサの変化に対応するのに時間がかかるので、放牧で草を食べさせず、通年で同じ飼料を与え続ける農家も多いといいます。

一方、放牧による牛乳づくりをしているUAでは、春から夏は栄養価の高い草を、秋から冬にかけてはストレスの具合と体調を見ながら少しずつレシピを変えたエサを与えています。季節による影響は、牛乳の味にも。例えば、牧草を食べて育つウシの乳は草の風味が感じられ、カロチンが多く含まれることから少し色味があります。
脂肪分が少ないあっさりとした味わいが特徴です。一方、冬の牛乳は脂肪分が多く、コクのある風味が特徴です。

「環境に対するリスク」も考慮を


冬の間の放牧を考えるうえで、もうひとつ忘れてはならないのが環境に対するリスクです。そのひとつが「泥でい濘ねん化」。牧草がない場所にウシを放つことで地面がどろどろになってしまう現象を指します。
「泥濘化した牧草地では、ウシの糞や尿が地下水にしみ出したり、周辺の川に流れやすくなったりしてしまいます。本来であれば牧草の根が糞尿の栄養素を吸い上げて地下水や河川への汚染を防ぐのですが、牧草が生えていない場所ではそうはいかないからです」。

さらに、一度ドロドロになってしまった牧草地は春になっても緑が戻らず、何も生えない裸地になってしまう場合もあるといいます。また、酪農家によるふん尿の散布も問題です。
牧草地やトウモロコシといったウシのエサをつくる畑にとって、ウシのふん尿は貴重な栄養となります。エサや肥料に多くのコストをかける酪農生産者にとって、ふん尿のリサイクルは経済面で大きなメリットがあるのです。

一方で難しいのは、畑の状態に合わせて適正な量を散布できるかどうか。
牧草やトウモロコシが吸収できる量よりも多いふん尿が散布されてしまうと、その栄養素が周辺環境に流れ出してしまい、富栄養化(河川や海の水に含まれる栄養素が、自然の状態よりも増えてしまうこと)の原因となります。
特に作物が影響を吸収しにくい秋から冬の時期にかけては、栄養素が周辺環境に流れるリスクが高くなってしまいます。

ニュージーランドで制定された、新しいルール


こうした栄養素の流出が大きな問題になったのが、畜産大国であるニュージーランドです。問題に終止符を打つため、政府は2023年に淡水に関する国家環境基準を改変し、ウシの冬期の飼い方に関するルールを定めました。

「一定以上の傾斜のある牧区では冬の間にウシを外に出してはならない」「河川とウシの飼育場所の距離は5メートル以上離れていなければならない」「泥濘化によって失われた植物をなるべく早く回復させるため、種を素早く植える」など細かい基準が設けれられ、従わないと罰金が課されるといいます。

同様の課題は北海道でも起こっており、例えば秋に散布された糞尿が雪解け水と一緒に春に河川へ流れることなども問題に。とはいえ、ニュージーランドのケースにおいても、新しい基準が生産者と規制当局の間の軋轢を生んでいるという報道もあります。

また、栄養素が環境に漏れ出すリスクの高い秋から冬の間にふん尿を畑に散布せず、一方で春夏の必要な時期に散布できるようにしておくためには、大きな糞尿貯留施設と流出を防ぐための仕組みが必要とされるでしょう。

こうした施設の建設や維持には多くのコストがかかるため、十分な対策がとれない現場も多いと内田さんは話します。「生産者への支援と、なぜそのような施設が必要かを知らせるための活動がもっと必要です。また、法的整備がどのようにされるべきなのかや、生産者と地方自治体や環境省などがどのように一緒に考えていくべきなのか、これから議論も必要でしょう」