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“お菓子に使われにくい”原材料でお菓子をつくるブランドが、人と地球の健康に貢献する【The Regenerative Company:Simple Mills】

    リジェネレイティブアグリカルチャーを牽引する世界各国の企業を紹介し、その実践の最前線を伝えていく連載「The Regenerative Company」。第11回は、通常お菓子に使われることの少ない食材でクラッカーやクッキー、ミックス粉などを製造し、農家が多様な作物を育てるインセンティブを生み出そうとしているSimple Millsについて。

    本記事は、ユートピアアグリカルチャーが提供する、美味しさと情報を届ける定期便「GRAZE GATHERING」に同封される冊子「GG MAGAZINE」からの転載になります。

     

    2022年5月から開始した「GRAZE GATHERING」はリジェネレイティブな放牧の可能性を伝え、共に考えていく取り組みです。4週に1度、2,280円(+送料)でユートピアアグリカルチャーが育てた新鮮な素材(放牧牛乳800ml,放牧牛乳ヨーグルト800ml,平飼いの卵8個入×2パック)と、地球と動物と人のより良い環境作りを目指す活動の報告、リジェネレイティブアグリカルチャーに関するコンテンツ記事をお届けします。

     

    ▷GRAZE GATHERINGの詳細・お申し込みはこちらから

    https://www.utopiaagriculture.com/products/graze-gathering/

    単一品種の作物のみを栽培するモノカルチャー(単一栽培)。多くの国で採用されているこの農業形態は、病気や害虫が発生するリスクの上昇やそれに伴う農薬使用の増加、機械のためのエネルギー使用、土壌の劣化や生物多様性の減少など、多くの問題をはらんでいます。

    ただし、モノカルチャーは世界中に農作物を売り込めるようになった現代における農家の成長戦略でもありました。世界的に需要が高い小麦や大豆、トウモロコシ、綿花といった作物を、機械の力を借りながら効率的に育てることによって、利益を増やせるのです。しかし、多くのリスクをはらむこの農業形態は持続可能とは言えません。

    では、どうすれば農業に多様性を生み出せるのか? 米国の食品ブランドであるSimple Millsは、商品の原料に工夫を施すことによって人と地球の健康の両方に貢献しようとしています。

     

    “お菓子に使われにくい”原材料でお菓子をつくるブランド

    2012年創業のSimple Millsは、クラッカーやクッキー、ミックス粉などを手がける食品ブランドです。合成香料や着色料、保存料を使わないオーガニックでグルテンフリーな食品を約40種類を、アマゾンやホールフーズ・マーケットなどで販売しています。

    Simple Millsの商品がもつ最大の特徴は、その原材料です。焼き菓子やミックス粉の材料というと、小麦粉やバターが思い浮かぶかもしれません。しかし、同社の商品の原材料はアーモンドフラワー(生のアーモンドを粉末状にしたもの)やキャッサバ、ココナッツシュガーなど、通常お菓子に使われることの少ない食材ばかりです。

    その理由は、創業者であるカトリン・スミスの経験にあります。大学卒業後に経営コンサルティング会社で働いていた彼女は、忙しい日々の中で食事が偏り、健康がおざなりになっていく状況に不安を感じていました。そこで彼女は栄養価の高い原材料を使ってミックス粉を作れないか模索し始めたのです。「ビタミンやミネラル、タンパク質を豊富に含むシンプルな自然食品を、より簡単に、よりおいしく食べられるようにしたいと思ったんです」と彼女は振り返ります。

    平日にフルタイムの仕事をしながらの研究は難航しましたが、Excelシートで配合を計算し、90種類以上のレシピを考案しました。これが、Simple Millsの始まりです。

     

    農家が多様な作物を育てるインセンティブを生み出す

    原材料に多様性をもたらすことのメリットは、人の健康促進だけではありません。さまざまな食材を採用することで、農家により多様な作物を育てるインセンティブを提供できるのです。

    モノカルチャーを営んできた農家たちも、必ずしも好き好んでトウモロコシや小麦だけを育てているわけではないのだと、Simple Millsのサステナビリティ担当副社長であるシャウナ・サドウスキは語ります。「だからこそ、われわれは農家たちに『今後育てたい作物のなかに、私たちが市場を提供できるものはありますか?』と聞いて回っているのです」

    加えて、Simple Millsはモノカルチャーによって劣化した土壌を回復する再生型農業への投資にも力を入れてきました。同社は土壌の専門家や農家と相談しながら水を大量に消費する穀物をより水適応性の高いものに置き換えたり、再生型農業を実践している農家から原材料を積極的に仕入れるなど、こうした試みを通じて気候変動対策に効果的な商品を開発しています。また、農家と直接契約を結ぶことにより、長期にわたってそうした試みが続けられるような工夫も続けました。

    「私たちは再生型農業で生産できる原材料かどうかを考えて商品設計をしているのです」と、サドウスキは話します。「サプライヤーや農家と協力し、輪作の延長、被覆作物、有機肥料など、健全な土壌を作り、最終的には土地を癒すような手法を取り入れ、再生農業の推進を支援しています」

     

    人と地球、その両方の健康に貢献する

    そうした再生可能型農業への投資のひとつが、フランスのフェアトレード推進企業「PURプロジェクト」と共に立ち上げた「ココナッツ・シュガー・プロジェクト」です。2022年9月にインドネシア・ジャワ島で始まったこのプロジェクトは、Simple Millsも使っているココナッツシュガーの栽培で再生型農業を採り入れることを目的としています。

    ジャワ島はココナッツシュガーの一大産地であり、木に登る伝統的な収穫方法と製造法が何世代にもわたって受け継がれてきました。またココナッツシュガーがとれるココヤシは一年中地中に根を張るがゆえに、生物活動の促進や栄養の循環、侵食防止、有機物の増加、炭素隔離など生態系や環境にポジティブな影響を与えると言われています。

    新しく始まった「ココナッツ・シュガー・プロジェクト」では、そうしたメリットをもつココヤシの農場にバニラ、バナナ、マンゴスチンなど、ココヤシと相性が良い樹木を加えることで、さらに健全で多様性のある土壌を養いながら、農家の収入を増やせるようにしていくといいます。

    3年にわたり続くこのプロジェクトでは、アグロフォレストリーを実践するためのトレーニングや技術支援や加工に必要なキッチンの修繕、登っても安全な高さにしか成長しない種の選定などがおこなわれる予定です。

    食生活の多様性を広げるこうした取り組みを通じて、スミスは人と地球の両方に良い影響を与えることを目指すといいます。「私たちが口にする食べ物は、私たちの体にポジティブな影響を与える可能性があるだけでなく、地球の健康にも大きな役割を果たします」と、スミスは話します。「環境に配慮した持続可能な方法で食品を栽培すれば、気候変動に対処する原動力となるのです」