土地の恵みを活かす「土づくり」
街を歩いている時、コンクリートの下に眠る土壌。普段は意識せずに過ごしているものの、私たちが日々口にする野菜やお菓子、乳製品のその裏側には「土」が深く関わっています。
豊かな土壌が美味しい食物を育てる一方で、廃棄等によって失われる健康な土もあります。近年の研究では、豊かな土壌は多くの栄養素や水分を提供するだけでなく、気候変動の原因となる炭素を吸収できるということもわかってきました。
土壌は大気の2倍、地上に生える植物の3倍の「炭素貯留能力」を持つ巨大な炭素貯蔵庫。温暖化や気候変動の原因となる大気中に放出された炭素は、植物の光合成と分解の過程を経て、土壌に蓄えられます。

そして、栄養素が多く存在し多様な微生物が存在する「豊かな土」では、より多くの炭素を吸収/固定できます。また、農地を耕さない「不耕起栽培」によって、より多くの炭素を土壌内に貯蔵できることも明らかになってきました。ユートピアアグリカルチャー(以下、UA)でも、放牧酪農にてリジェネレイティブアグリカルチャー(環境再生型農業)を実践し、美味しい食材を生み出す豊かな土壌をつくることで、カーボンオフセットをしながら美味しいお菓子を作ることに繋げています。
地球にも動物にも人にも優しいお菓子作りにおいて、そして気候変動にブレーキをかける脱炭素においても重要な鍵となる「土」ですが、私たちの身近にある「落ち葉」を使って「豊かな土」をつくるという古来からの里山の営みによって、土壌の再生に取り組む地域があります。今回は、江戸時代から続く埼玉県・三さん富とめ地域の取り組みに注目し、ご紹介します。
落ち葉がつくるゆたかな土
埼玉県の川越市、所沢市、狭山市、ふじみ野市、三芳町にまたがる三富地域では、江戸時代の川越藩によって開拓が行われた際の伝統的な農法「武蔵野の落ち葉堆肥農法」を継承・実践し、昔ながらの里山の景観を現代につないでいます。
「武蔵野の落ち葉堆肥農法」は、江戸時代から続く農法で、土地を72m×682mの短冊形に区画分けし、奥を雑木林、真ん中を農地、手前を住居として、雑木林から得られる落ち葉を堆肥化して農地にまき、土壌改良を行うことで安定的な生産を実現し、その結果として景観や生物多様性を育むという、里山の自然の循環を生かした農法です。

300年以上の歴史をもつこの農法は、昨年、国連食糧機関(FAO)から世界農業遺産にも認定されました。落ち葉を使った堆肥作りはこう行われます。雑木林の落ち葉を集め、そこに米ぬかや水を混ぜて、定期的に切り返しをすると微生物の力で発酵が進みます。落ち葉は2年ほどかけて発酵を進め、農地で使われるふかふかの堆肥に変化します。
落ち葉を焼却処分していたら、樹木が光合成によって取り込んだ炭素は再び大気に放出されますが、落ち葉堆肥農法では、微生物の力を借りて分解され、土壌に再び蓄えられ、循環を続けます。さらに、落ち葉堆肥を使うことで、土がさらに豊かになる現象がおきます。
微生物たちが落ち葉の有機物を分解する際に、糊状の物質が発生し、この糊状のものが、土の中の粒子同士をくっつけることで団粒が作られます。それによって細かい空洞のある「団粒構造」ができあがります。
団粒は細かい空洞のある極小のボールのようなもので、この団粒の隙間を水や空気が通り抜けることで、排水性・通気性・保水性に優れたふかふかの土ができあがります。

そうしてできた多様な微生物が暮らす健康な土によって、栄養豊富で美味しい野菜が作られるのです。毎年1月には、地域の住民が集まって熊手で堆肥となる落ち葉を集めるイベント「三富千人くず掃き」も実施されています。
周辺部の都市からもボランティアが訪れるなど、コミュニティの発展にも繋がっています。
「種まき」からではなく「土づくり」から
そんな三富地域内にある石坂オーガニックファームでは、この「武蔵野の落ち葉堆肥農法」を実践し、有機野菜の栽培をおこなっています。

このファームでは、除草剤や化学肥料を使わない有機栽培で、きゅうりやトマト、ブルーベリーなど、この地で受け継がれてきた「固定種」を中心におよそ40種を栽培しています。さらに、オーガニックファーム内に併設された体験農園「ReDAICHI」は、有機栽培や土づくりに興味のある人が参加できる場となっています。
落ち葉堆肥による土づくりや、固定種の種採りから収穫までを体験できるほか、有機農業の専門家による土づくり、野菜づくりを学べる講座も開催されています。また、隣接する環境教育フィールド「三富今昔村」では、落葉広葉樹が広がる平地林である里山を散策しながら自然の循環を学んだり、ファームでとれた有機野菜を味わうことができます。

いまでは豊かな林地と農園を有する場所ですが、高度経済成長期以降は不法投棄による林地の「ゴミ山化」や高齢化等による耕作地の荒廃が深刻な状況だったといいます。石坂オーガニックファーム、そして三富今昔村を運営する石坂産業は、不法投棄が続き「ゴミ山」と化していた里山のゴミを片付け、かつて農業用の林として使われていた里山の再生に挑戦してきたと言います。
同社は建設系産業廃棄物を中心に中間処理を行う企業で、世界的にも注目されるゴミのリサイクル技術を持ち、循環型社会の実現を目指しています。
近年は、資源の循環と再生を目指し、この地域での環境教育事業も展開しています。
石坂産業の担当者は、石坂産業、そしてオーガニックファームでの取り組みとその意義について次のように話しています。「化学肥料に頼る農業によって土壌汚染を始めとした問題が注目される今、土壌の肥沃度や生産力は低下しています。
世界的に生物多様性の減少なども議論されており、環境再生は重要なテーマです。有機栽培は自然の力で野菜栽培をする栽培方法であり、石坂オーガニックファームでは、手間のかかることはあるものの、地域に根差した有機栽培を続けています。

また、体験農園「ReDAICHI」をはじめ、産業廃棄物の中間処理、環境教育、里山再生、農業・土壌再生といった取り組みを通じて、私たちの暮らしが自然環境や文化と繋がっていること、循環しているということを知っていだだければと思います」300年以上の時を経て、受け継がれてきた三富の里山の景色、そして「落ち葉」を使った先人の知恵。
近代化以降、大量生産・大量消費の社会の中で多くの環境資源が失われてきましたが、かつての先人たちの知恵に学ぶことが「豊かな土」づくりの一つのヒントとなるのではないでしょうか。