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世界的パティシエ・青木定治氏が長野から見出した、農業の可能性

    お菓子の本場、フランスで高い評価を受ける『パティスリー・サダハル・アオキ・パリ』。日本でもスイーツ好きでなくても、その名を耳にした人も多いのではないでしょうか。パリで認められる、世界をリードするパティシエ・青木定治氏に洋菓子業界における環境意識や、第一次産業のこれからについて、日本と海外を行き来するなかで近年感じていることを伺いました。

    【プロフィール】青木定治

    1968年愛知県名古屋生まれ。青山「シャンドン」を経て、89年単身パリへ。数々の名店で研鑽を積み、 95年、フランスのシャルルプルースト杯味覚部門で優勝。98年、パリにアトリエ開設。2001年パリ6区サンジェルマンに「パティスリー・サダハル・アオキ・パリ」を開店。いま世界で最も注目されているパティシエの一人。フランス最優秀パティシエへの選出、パリ市庁賞受賞など様々な受賞歴を持つ。2018年には、フランスで権威あるショコラ品評会「C.C.C.(Club des Croqueurs de Chocolat)」にて、5年連続最高位、8年連続の受賞。現在パリに5店舗、日本に9店舗を構える。信条は「お菓子を通して人を喜ばせること」。

     

    長野・軽井沢のアトリエから見出したのは

    ーー青木さんは現在、どのようなスタイルでお仕事をされていますか。

    青木:二年前のホワイトデーシーズンにロックダウンして、それから日本を拠点にしています。最近は規制も緩和してきたので、フランス日本間は二ヶ月ごとに往来しています。と言っても、国内での新しいプロジェクトにコミットしているので日本にいる時間が長いです。

    ーーここ数年での新しい取り組みについて教えてください。

    青木:もともと軽井沢のアトリエで、環境の変化によって行き場を無くしたフルーツの有効活用をテーマに、コンフィチュールを手掛けていました。軽井沢は幼少期によく過ごした懐かしさと、豊かな自然のある特別な場所です。観光客で賑わう軽井沢や、長野には素晴らしい食材がたくさんあります。それでもここ数年、まだまだ食べられる美味しそうなフルーツが廃棄されてしまう光景を目の当たりにして、とても心が痛かった。

    ーーフードロスは世界的にも注目される課題ですね。

    青木:長野県はフードロスや食品廃棄について、特に先進的です。生のもの、例えば果実なんかは、自治体でそのままバケツで返して持っていってくれるんです。すすいで流してくれますし、それはしっかりしてます。ごみとしてはカウントされず、肥料として使われます。皮は皮で、土にまいたらもう一回醗酵して使えるわけですし、理にかなっていますよね。

    ーー軽井沢や長野県ならではの苦労はありますか?

    青木:長野の農家さんは育てたものを、誰がどのように使うのか、納得のいく取引先か見極めていらっしゃいます。生産者が厳しい目で出荷先を選ぶのはとても良いことですね。

    ーー顔の見える生産者と同じで、農家さんにとって「顔の見えるパティシエ」が選ぶ基準になっているのですね。

    青木:プライドを持って出荷先を選ぶスタンスがいいですよね。今はフランスの菓子業界に限らず、誰がどんな思いで、どうやって作ったかを重視する風潮が強まっていますから。私の軽井沢でのプロジェクトは決して慈善活動でも、外から見たイメージのためでもありません。

    青木:自分は、自分のやりたいことに一致した人がいれば、農家さんだろうが、海外の方だろうが、スピリット、エスプリを持ってやってる人なら、一緒に作っていきたいんですよ。コンセプトが先じゃなくて、ね。世界レベルで自信を持って食べてもらえるものを作って、それができた時点で長野をヨーロッパにも広めていきたいと考えています。

    ヨーローッパで見る食、環境への意識

    ーーUAでは自社の養鶏場で育てた平飼い卵や、放牧乳を使ってお菓子を作っています。ヨーロッパのお店では、自社農場や牧場を持つなど原材料への配慮が進んでいますか?

    青木:レストランでやる人は増えてきてるかな。例えば三つ星の『アラン・パッサール』は自分で畑を持ってるし、南仏だと自分の牧場を持っているところも多い。ショコラティエによってカカオ農園との取り組みは浸透していますが、洋菓子店はまだまだ少ない印象です。

    ーー意外です。素材にも厳しいイメージがありました。

    青木:フランスは乳製品の他にも、市場にいけば無農薬のフルーツなど日常的に入手できます。パリのランジス市場にはシチリア島で取れるレモンや、コルシカ島で採れる栗、レモンなど、あらゆるフルーツや野菜が集まっています。無農薬だと、フルーツの形はでこぼこで皮が分厚くなってしまいますが、美味しいんですよ。そうしたフルーツや野菜が日常的だからか、フランスは洋菓子店に対して使っている原材料への関心が厳しくない印象です。

    青木:それに、フランスは人口6,000万人の規模ですから、ひとりひとりの選択が影響を及ぼすという臨場感が少ないのかもしれませんね。原材料への関心は、ヨーロッパですとドイツ、他地域だとアジアやアメリカ、特に国東海岸エリアは関心が高いですね。

    ーー環境問題への意識についてお聞かせください。環境活動家のグレタさんや、COP21(気候変動枠組条約締約国会議、Conference of Partiesの略称)の影響がヨーロッパでは強いと思いますが、日本と違いを感じることはありますか?

    青木:日本との違いを感じるポイントは、ルールの浸透が早いこと。特にヨーローッパで環境問題に先進的なのはドイツですね。これは国の規模感や、リーダーの存在にもよりますが、ルールの浸透が早い。日本は国単位で一歩進むときの重さを感じます。

    ーーパリの店頭で感じる違いはありますか。

    青木:文化的な違いかもしれませんが、自分用のケーキを買われる方は「箱はいらないよ!」「包装はなるべく簡単に!」と昔から簡易包装を依頼されることが多いです。そういった簡易な対応であってもお客様の方から「ありがとう」と言ってもらえるんですよ。ありがとうの方向性が日本とは違うのが、興味深いですね。その一方で日本的なおもてなし、例えば風呂敷に包むといった文化はパリでも愛されています。

    ーー日本とパリを行き来するなかで環境意識や、文化の違いをより強く実感されたのですね。

    地上でやってることには可能性がある

    ーーパティシエとして、生産者の方々に期待していることはありますか?

    青木:果物にしても、酪農にしても、農家さんはカッコよくあってほしいし、そういう方が増えていますよね。もっとスターが生まれてもいいはずです。洋菓子業界では若いパティシエが多く活躍しています。農家の跡継ぎ問題はよく耳にしますが、実はチャンスなのだと思います。

    農家と若く才能のあるパティシエとのマッチングがうまくいけば、きっとスターが生まれるはず。農家の人たちなんて、今は条件に恵まれているのではないでしょうか。継ぐ気があれば、規模の大小は問わず、土地は手に入るし、買えなくても貸してくれる人も増えたでしょうし。腕を試すには良い時代だと思います。

    青木:出荷先がやっぱり命なんですよね。だから、厳しい目で選んでほしい。農家さんが地面と闘い育てた大切な作物の出荷先を厳選するのは当然です。パティシエはお客さんだけではなく、農家さんにも育てられるべき。地上でやっていることは将来性があると思います。

    色々な事情で作り過ぎてしまう、余ってしまうこともあります。それでも、作り手の顔が見えるような商品は、今日でも引っ張りだこ。これから農業の人たちに対して、国も動いていくでしょう。農業でも、養鶏でも、地面のスターが生まれるのはすごくいいと思います。

    ーー作り手として大切にしてほしいことはありますか。

    青木:世の中に対して疑問を持つことです。疑問を抱いたテーマや領域こそ、自分の大切にしたいことだと思うんです。疑問や、譲れない部分がないままに動いたとしても、答えが見つからないと言いますか、農家の人たちにそういう姿勢で作ってほしいですね。

    何をやっても一緒です。ウーバーの配送の人も、パリのごみ処理の人も、ケーキ屋も、農業も。僕は子どもによく、「誰か喜ぶ人のために楽しくやってる人が一番偉いんじゃない?」と話しています。

    ――青木さん自身、若い頃に意識していたことはありますか

    青木:自分よりもはるかに大きな仕事をやってる人に、「おまえに会うと元気をもらうわ」くらい言ってもらえる存在じゃないと、広がりはないと思っていて。27、28歳の頃コンクールをフランスで制覇したときに、きのとやの長沼さんだったり、シャトレーゼの齊藤さんと知り合いになって。こんなボリュームを作ってる人たちに出会って、そう感じました。

    ーー青木さんが気概を持って、切り拓いた道ですね。若い世代の活躍はその道をたどって、活躍していますか?

    青木:海外に出てアーティストの自分を磨いてるっていうよりも、俺でもできるんだぜ!という気持ちで過ごした日々でしたよ。海外でもがむしゃらに頑張る日本人を見て、今若い子たちがどんどん出てきて、嬉しいです。

    【取材協力】

    BISTRO CAFE LADIES & GENTLEMEN
    東京都新宿区新宿3-14-1 伊勢丹新宿本店 本館3F
    公式ウェブサイト:https://www.transit-web.com/content/shops/bistro_cafe_ladiesgentlemen/

     

    フードプロデュースは国内外の著名人を顧客に持つ「オーギャマン・ド・トキオ」で知られるフレンチビストロの第一人者である木下威征氏が担当。ケーキプロデュースはパリを拠点とし、世界をリードするパティスリー「パティスリー・サダハル・アオキ・パリ」の青木定治氏が担当。サダハル・アオキ自慢のケーキが色々楽しめるよう、6種アソートになったケーキプレートが登場します。日本を代表するシェフとパティシエによるオリジナリティあふれる東京スタイルのビストロメニューをお楽しみいただけます。