地球にも動物にも人にも“おいしい”お菓子づくりに向けたロードマップ
わたしたちユートピアアグリカルチャー社(UA) は、「22世紀に続く酪農とお菓子の環境作り」を掲 げ、環境や動物への負荷を考慮した放牧酪農の実 証に取り組んできました。CHEESE WONDERで は原材料として使用され、GRAZE GATHERING では商品としてお届けしている放牧牛乳や平飼い の卵も、UAの牧場で育てられたものであり、放牧酪農の実験のなかで生まれたものです。

これまでにたびたびお伝えしたように、牛が排 出するゲップやおならに含まれるメタンガスは温 室効果ガスの一つで、その量は全世界における 温室効果ガス総排出量の約5%を占めると推定さ れています。
だからこそ、ユートピアアグリカル チャーの場合は、牛や馬の放牧により土壌や森林 を活性化することで、温室効果ガスの吸収量を増 やし、牛乳や牛肉などの食料生産における環境 負荷を減らすだけではなく、環境再生につなげて いくことを目指しています。
そうした試みは「リジェネレイティブアグリカル チャー(環境再生型農業)」と呼ばれており、食料生 産の過程で地球温暖化の原因である二酸化炭素 を多く吸収できる豊かな土壌をつくることで、環 境負荷を減らすだけでなく、生態系そのものを回 復したり、環境にプラスの影響を与える農法とし ていま世界中で注目を集めています。
放牧を通じて、 豊かな森林づくりを目指す
UAでは2022年2月に日本型リジェネレイティブ アグリカルチャーの実証実験として「FOREST REGENERATIVE PROJECT(FRP)」を開始しました。

FRPはUAの持つ2つの牧場のひとつである盤 渓エリアにて、森林を再生させながら放牧酪農及 び養鶏を行う施設の設置と実験を行うプロジェク ト。森林の中で牛や馬を放牧することで、土壌の 持つ二酸化炭素の吸収機能を高めること(=豊かな森づくり)を目指しています。具体的には、牛や 馬などの多様な動物が森で暮らし、草花を食べ、 ふん尿をする。それは分解され、植物や微生物の 養分となりまた森が育つ。こうして土壌が豊かになることで、土の中にも二酸化炭素を閉じ込めて おけるようになるのです。

さらには、放牧の過程 では、森を適切に管理することも重要です。二酸 化炭素をあまり吸収することができない樹齢の長 い木を切って他の資源として活用し、若い木を中 心とした森を維持していくことで、多様な生態系 と豊かな土壌が生まれると考えています。
FRPは開始から1年2ヶ月ほどが経とうとしてい ますが、現在は森の中で馬の放牧を行いつつ、土 壌に含まれる二酸化炭素の量や森林がどのよう な状態にあるかを観測している段階です。

共同研 究者としてFRPにおいて中心的な役割を担う北 海道大学准教授の内田義崇さんは「FRP の実験 は、ここから本格的に始まっていくと言ってもいい でしょう。いまは森林や土壌がどのような状態に あるのかを観測し、未来に向けたロードマップをつくっています」と語ります。
具体的な活動内容 には、盤渓エリアの各地点にて土壌の深度ごとの 炭素蓄積量のモニタリングや、3Dスキャナを用い た森林の密度のモデル化に取り組んできました。 そして、ここまでの実験結果として、「土壌の深 い層へと炭素を貯蔵させること」を今後のひとつ の目標として定めていきます。土壌はどの深度に も均等に炭素を貯蔵するわけではありません。

盤渓であれば、木の密度が高く落ち葉が多く積もる ことから表層に多くの炭素が貯蔵される一方で、 土壌の深くにはまだまだ土壌炭素を吸収できる余 裕があることがわかりました。実際のデータを見る と土壌炭素の測定を行っていた9箇所全てで、地 中15cm以下の土壌炭素が枯渇しています(図1 参照)。
その要因としては、光合成を通じて炭素を 地中深くまで送り出す役割を持つ林床植生(シダ 類やユリ科など)が放牧している馬に食い尽くされ ていたり、そもそも木々が生い茂りすぎているため 林床植生まで栄養素が行き渡りづらい環境であったことが挙げられます。
そこで今後の方針として は、林床植生が多い環境をつくるために、馬をエリア内の別のエリアに定期的に移動させるなどし て食い荒らしを防いだり、樹齢の長い木を切り、林 床植生に十分な栄養素が回る状態をつくっていく ことが重要とみています。このような取り組みにより、約50年後には1ヘクタールあたりで現在の約 2倍である120トンもの炭素を貯蔵できるように なるという予測データも得ることができました。
10年後、20年後を見据えて 実験を続けていく
さらに内田さんは「食糧生産あたりの炭素吸 収量を出していくことも大切」と続けます。
過去 のUA Journal のインタビュー(Vol.5)でも、内 田先生はFRP の位置づけを次のように語って いました。「いま私たちが真剣に考えなくてなら ないのは『持続可能な地球環境を守りながら食 料を生産する方法』であり、その答えのひとつが 『肥料がなくても育つ植物を最大限利用する』 ことだと考えています」 森林での放牧の大きなメリットは、森が二酸 化炭素を吸収しながら、牛や鶏はもちろんのこと、木になるリンゴやクリ、足元に映えるキノコ などの食糧も生産できることにあるのです。
そのためには、現在は盤渓の牧場に馬のみを放 牧している状態ですが、今後は牛の放牧にチャ ンレンジしたり、より多様な植生をデザインした りする取り組みにより、森林としての食料生産を 活性化していくことが重要だと内田さんは述べています。 さらに、このような実験は10年や20年といった 長期的なスパ
ンで続けていくことも大切だと続けます。

「森林での放牧による効果やメソッドを体 系化しようという取り組みは世界的にみても、ま だまだ始まったばかりといえるでしょう。炭素吸 収に関する理論的な枠組みは少しずつ整えられ つつあるものの、実際に森林で放牧をするときに 活用できるモデル(例えば、森林の密度や成長率と 土壌炭素の蓄積量の関係性)などは一般化されて いない状況です。
だからこそ、今回の実験では、 植生の変化には長期的な時間を要することも踏 まえつつ、試行錯誤を重ねながら豊かな土壌や 森林をつくっていくことが大切だと思っています」 内田さんも述べるように、放牧酪農をめぐる 実証実験は世界的にみてもまだ発展途上の段 階です。
しかし、そのアプローチを確立できれ ば環境問題や食糧問題の解決に向けた大きな 打ち手となるはず。だからこそ、UAでは今後も 試行錯誤を続け、地球にも動物にも人にも“ お いしい” お菓子づくりを目指していきます。